Research Results 研究成果

女王を中心とした真社会性哺乳類ハダカデバネズミ社会の全貌

――全個体自動追跡システムによる大規模社会行動解析――
医学研究院
三浦 恭子 教授
2025.10.09
研究成果Humanities & Social SciencesLife & HealthMath & Data

ポイント

  • 真社会性哺乳類であるハダカデバネズミにおいて、個体タグ技術を用いて群れ内全個体を30日間追跡し、群れ全体の行動型と社会関係を網羅的に明らかにしました。
  • 繁殖個体(女王・繁殖オス)が特異な行動型を持ち社会の中心を担う一方、非繁殖個体(ワーカー)が多様な行動型に分かれ安定的に役割分担していることを示しました。
  • 本成果はハダカデバネズミにとどまらず、多様な動物種の社会構造研究に広く応用可能であり、社会性研究の基盤を築くものです。

真社会性を示すハダカデバネズミの群れの様子

概要

図1:真社会性哺乳類であるハダカデバネズミの社会構造

熊本大学大学院生命科学研究部の山川真徳文部科研研究員、東京大学定量生命科学研究所の奥山輝大教授、九州大学大学院医学研究院の三浦恭子教授(兼:熊本大学大学院生命科学研究部 客員教授)、総合研究大学院大学の沓掛展之教授らによる研究グループは、哺乳類では極めて珍しい真社会性(注1)を持つハダカデバネズミにおいて、大規模社会行動解析によって社会全体の構造と個体間の社会的関係性を明らかにしました。

本研究では、個体タグであるRFID(注2)技術を用いた群れ全体の自動追跡システムを独自開発し、5群102匹を対象に30日間の動きを網羅的に記録しました。その結果、繁殖個体(女王と繁殖オス)は特有の行動を示し、社会の中心的存在であることが判明しました(図1)。一方、非繁殖個体(ワーカー)は「働き者」など6種類の行動型に分かれ、安定した役割分担をしていることがわかりました。さらに行動型ごとに他個体との関係性も異なり、群れの中で多様な戦略が共存していることが示されました。

この成果は、他の動物種での社会性研究にも応用可能であり、協力社会の仕組みやその維持メカニズムを解明するための重要な基盤となります。本研究成果は、日本時間2025年10月9日付で、Science Advances誌に掲載されました。

用語解説

(注1)真社会性
アリやハチに代表される高度に分業化された社会を作る性質のこと。特に、二世代以上が群れに共存し、群れ内で繁殖する個体と繁殖しない個体に分かれ、親以外の個体が子の世話に参加するような社会のことを指す。

(注2)RFID
Radio Frequency Identificationの略。無線通信を利用して物体や個体を識別する自動認識技術のこと。

論文情報

雑誌名:Science Advances
題 名:Quantitative and systematic behavioral profiling reveals social complexity in eusocial naked mole-rats
著者名:Masanori Yamakawa*, Takahiro Ezaki, Akiyuki Watarai, Nobuyuki Kutsukake, Kyoko Miura*, Teruhiro Okuyama*
*:責任著者
DOI:10.1126/sciadv.ady0481