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Research Results 研究成果

思春期における大脳皮質のシナプス形成が高次脳機能発達の鍵

~統合失調症の病態メカニズムにも新説~
医学研究院
今井 猛 教授
2026.01.15
研究成果Life & Health

ポイント

  • マウス大脳皮質において興奮性シナプスの大規模解析を行ったところ、樹状突起の特定の部位にシナプスが高密度に集積していることを発見しました。
  • シナプス密度は思春期に減るという従来の定説に反し、シナプスの高密度集積部位は思春期に作られることを見出しました。
  • 統合失調症(※1)関連因子の変異によって、シナプスの高密度集積が思春期に正しく起こらないことを見出しました。

概要

われわれヒトの高次脳機能は大脳皮質の神経回路によって支えられています。大脳皮質の神経回路は、幼若期のみならず、思春期にかけて徐々に発達していくことが知られていますが、思春期の大脳皮質において神経回路がどのように発達し、高次脳機能を獲得するのかはよく分かっていません。

九州大学大学院医学研究院の今井猛教授、江頭諒大学院生(研究当時)、理化学研究所の柯孟岑研究員(研究当時)、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科の玉川(中川)直助教、藤田医科大学の宮川剛教授らの研究グループは、マウスを用いて、思春期における大脳皮質のシナプス分布の変化を明らかにしました。本研究では、大脳皮質の情報処理の要である第5層錐体細胞(※2)に着目し、興奮性シナプスが存在する「樹状突起スパイン(※3)」の分布を網羅的に解析しました。その結果、尖端樹状突起(※4)と呼ばれる樹状突起の特定の領域にはスパインが高密度に集積していることが分かりました。更に、その発達過程を調べたところ、こうしたスパインの高密度集積は幼若期には存在せず、思春期に経験依存的に作られることが分かりました。次に、統合失調症が思春期に発症しやすいことに着目し、統合失調症のモデルマウスの解析を行ったところ、幼児期のシナプス分布が正常であった一方、思春期においてシナプスの高密度集積部位が正しく作られないことを見出しました。従来、思春期には大脳皮質のスパインは刈り込まれて少なくなるというのが定説であり、また統合失調症における大脳皮質の異常は、思春期にスパインが過剰に刈り込まれるためであるという説が有力でした。一方、本研究では、思春期において新たにたくさんスパインが作られる領域があることが判明し、さらにそのスパイン形成過程が統合失調症において損なわれている可能性が示唆されました。思春期のスパイン形成が正常な高次脳機能の発現に重要であることが示唆されました。本成果は、脳発達や精神疾患の病態の理解に寄与することが期待されます。

本研究成果は、2026年1月15日(木)午前4時(日本時間)に米国の科学雑誌『Science Advances』に掲載されました。

研究者からひとこと

図1 樹状突起スパインの高密度集積部位

私たちは、初めから脳の疾患を研究していたわけではありませんでした。2016年に高解像度でシナプス解析できるツールを開発できたので、試しに大脳皮質を観察してみたところ、偶然、これまで知られていなかったシナプスの高密度集積を見出しました。何の役に立つか分からない技術開発が、定説を覆す発見につながりました。 (今井 猛)

用語解説

(※1) 統合失調症
精神疾患の一つで、幻覚や妄想といった認識のゆがみを生じる陽性症状と、意欲の感情の低下といった陰性症状、認知機能の低下が特徴的です。人口の1%程度が罹患するとされていますが、詳しいメカニズムはまだよく分かっていません。Setd1a やHivep2, Grin1をはじめとする、いくつかの遺伝子の変異が発症リスクと関連することが分かっています。多くの場合、思春期以降に発症することが知られています。統合失調症は別の精神疾患を併発することも多く、Setd1aやHivep2, Grin1の変異は知的障害とも関連があるとされています。

(※2) 第5層錐体細胞
大脳皮質は6層構造からなります。まず第4層で視床からの入力を受け取ると、その情報を第2/3層に送り、最終的には第5層錐体細胞が皮質内の様々な情報を統合して、皮質の外へと情報を出力します。従って、第5層錐体細胞は、大脳皮質における情報の統合と出力のためのハブとも言えます。

(※3) 樹状突起スパイン
神経細胞はシナプスという1 µm以下の微小な構造を介して情報のやりとりをしています。シナプスには、受け手となる神経細胞を活性化させる作用を持つ興奮性シナプスと、不活性化させる作用を持つ抑制性シナプスとがありますが、大脳皮質においては興奮性シナプスのほとんどが樹状突起スパインと呼ばれる、長さ1-2 µm、直径0.2-1 µmの小突起の先端に作られます。そこで、本研究では樹状突起スパインの大きさと分布を詳細かつ大規模に定量しました。

(※4) 尖端樹状突起・基底樹状突起
大脳皮質の錐体細胞には、細胞体から水平方向に伸びる基底樹状突起と、脳の表面に向かって伸びる尖端樹状突起とがあります。一般的に、基底樹状突起には視床からやってくる感覚情報が、尖端樹状突起にはより高次の脳領域からやってくる情報が入力されると考えられています。

論文情報

掲載誌:Science Advances
タイトル:Dendritic compartment-specific spine formation in layer 5 neurons underlies cortical circuit maturation during adolescence
著者名:Ryo Egashira, Meng-Tsen Ke, Nao Nakagawa-Tamagawa, Satoshi Fujimoto, Shigenori Inagaki, Tsuyoshi Takagi, Tsuyoshi Miyakawa, Yoshiaki Tagawa, and Takeshi Imai
(江頭諒、柯孟岑、玉川(中川)直、藤本聡志、稲垣成矩、高木豪、宮川剛、田川義晃、今井猛)
DOI:10.1126/sciadv.adw8458