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Research Results 研究成果

隕石衝突の極限状態を「高圧ねじり」手法によって再現

~生命誕生の謎を解くRNA前生物化学への示唆~
カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所
Edalati Kaveh 准教授
2026.02.24
研究成果Life & HealthPhysics & Chemistry

ポイント

  • 隕石衝突の極限環境を再現する「高圧ねじり(HPT), ※1」手法を用い、生命の起源物質であるRNA前駆体(アデノシン一リン酸(AMP, ※2)の振る舞いを世界で初めて解明。
  • 高圧・高せん断の極限環境下では、AMPはリボ核酸(RNA, ※3)鎖へと繋がる「重合※4」を起こさず、アデニンやリン酸リボースなどの多様な有機断片へと分解・再編成※5されることを、X線回折・ラマン分光・核磁気共鳴(NMR)・質量分析などの包括的分析で確認。
  • 本研究は、隕石衝突がRNAの化学進化において「合成」だけでなく「分解」と「再編成」という複雑な役割を果たした可能性を示唆し、生命の起源を考える上での新たな視点を提供する。

概要

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(WPI-I2CNER)のEdalati Kaveh准教授、Hidalgo-Jimenez Jacquelineテクニカルスタッフ、Nguyen Thanh Tam学術研究員らの研究チームは、隕石や彗星などの小天体衝突が初期地球にもたらした極限環境が、生命の起源物質であるRNAの前生物化学※6に与える影響を調査しました。高圧ねじり(HPT)という革新的な手法を用いて衝突時の高圧・高せん断環境を再現し、RNAの主要な構成要素であるアデノシン一リン酸(AMP)の安定性と反応性を、乾燥状態および含水状態(10 wt% 水)、常温および沸点温度(300K, 373K)といった多様な条件下で評価しました。

従来、隕石衝突は生命の材料を合成する役割が強調されてきました。しかし本研究では、X線回折、ラマン分光、赤外分光、核磁気共鳴(NMR)、走査型電子顕微鏡、質量分析などによる包括的分析により、AMPがRNA鎖へ繋がる重合反応を起こす証拠は見つかりませんでした。代わりにAMPは、核酸塩基に由来するアデニン断片(C₅H₅N₅)、リン酸リボース断片(C₅H₅O₅P)、脱水アデノシン(C₁₀H₁₁N₅O₃)、プロトン化アデノシン(C₁₀H₁₄N₅O₄⁺)、酸化アデノシン(C₁₀H₁₃N₅O₅)といった、多様な有機化合物へ分解・再編成されることを発見しました。HPT処理中のトルク測定※7からは、AMPの極限環境下での特異な力学的挙動も明らかになりました。

本成果の意義は、初期地球におけるRNAの前生物化学進化において、隕石衝突が「合成」だけでなく「分解」と「再編成」という複雑な化学プロセスを駆動した可能性を実験的に示した点にあります。また、重合が進行しなかったという結果から、RNAのような複雑な生体高分子の出現には、高圧・高せん断の力学的ストレスに加えて、鉱物触媒や紫外線照射などの環境的・触媒的因子の関与が不可欠であったことが示唆されます。本研究は、地球外物質衝突という極端な物理環境が前生物化学に果たした役割を、新しい手法で検証するための重要な基盤を提供するものです。生命の起源という科学的な謎を解き明かす上で、力学的作用と化学反応の相互作用を考慮した新たな視点を切り開きます。

本研究は、2026年1月10日(土)付で学術誌『Astrobiology』に掲載されました。

図1. 高圧ねじり(HPT)法による隕石衝突模擬実験の概念図:彗星や隕石などの小天体衝突が初期地球にもたらす高圧・高せん断の極限環境を、HPT装置で再現し、RNAの構成単位となるヌクレオチド(AMP、UMP、GMP、CMP)の化学反応と安定性を調査する。本手法により、天文イベントが前生物化学、特に生命の起源に不可欠な分子であるRNAの形成にどのような影響を与えたかを解明する。

用語解説

(※1)高圧ねじり(HPT)
超高圧(数万気圧)と、強い「ねじれ」の力を同時に材料にかけることができる特殊な加工・実験手法。隕石衝突時に発生する、圧縮だけでなく地層をかき混ぜるようなせん断力を再現するために用いた。金属の強化など材料工学で開発された技術を、生命起源研究に初めて応用した点が新しい。

(※2)アデノシン一リン酸(AMP)
生命の設計図であるRNA(リボ核酸)を構成する、基本的な「レンガ」の一つ。細胞内ではエネルギーの通貨「ATP」の関連物質でもある。今回の研究では、RNAができる前の「前生物化学」の段階で、このAMPが宇宙の衝撃にどう反応するかを調べた。

(※3)RNA(リボ核酸)
DNAと並ぶ生命の基本分子。遺伝情報を運ぶだけでなく、自分で化学反応を進める「触媒」としても働くことができる。生命が最初に持っていた分子はRNAだったとする「RNAワールド仮説」の主役であり、その起源の解明は生命誕生の核心に迫る手がかりとなる。

(※4)重合
同じ種類の小さな分子(モノマー)が次々とつながり、鎖状や網目状の大きな分子(ポリマー)になる化学反応。今回の研究では、AMPという「レンガ」がつながってRNAの「鎖」になる反応を指す。実験ではこの反応は確認されなかった。

(※5)分解/再編成
大きな分子が壊れて小さな部分に分かれること(分解)、そしてそれらの部分が別の新しい分子に組み替わること(再編成)。本研究では、隕石衝突の模擬環境下で、AMPがRNA鎖を作る代わりに、さまざまな有機分子へと分解・再編成されることが明らかになった。

(※6)前生物化学
生命が誕生する「前」の段階で、有機分子がどのように形成され、複雑化していったのかを研究する分野。地球初期や宇宙空間といった環境を想定し、無機物から生命の材料ができる過程を探求する。

(※7)トルク測定
回転軸に作用する力の大きさ(モーメント)を定量的に評価する測定。

論文情報

論文名:High-Pressure Torsion-Induced Transformation of Adenosine Monophosphate: Insights into Prebiotic Chemistry of RNA by Astronomical Impacts
著者名:Kaveh Edalati*, Jacqueline Hidalgo-Jimenez, Thanh Tam Nguyen(九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(WPI-I2CNER)
雑誌名:Astrobiology 
DOI: 10.1177/15311074251412318

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