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Research Results 研究成果
ポイント
概要
杏林大学(東京都三鷹市 学長:渡邊 卓)医学部、九州大学(福岡県福岡市 総長:石橋 達朗)大学院農学研究院、東京大学(東京都文京区 総長:藤井輝夫)大学院理学系研究科などからなる研究グループが、メラトニン受容体(注1)MT1が複数の細胞内シグナルを使い分けるしくみを解明しました。
Gタンパク質共役受容体(GPCR)は、細胞外の情報を細胞内へ伝える重要な分子群であり、現在約30%の医薬品の標的になっています。GPCRは細胞内のGタンパク質と結合することでシグナルを伝えますが、同じ受容体であっても、結合するGタンパク質の種類によって異なる細胞応答を引き起こします。
メラトニンは、睡眠・覚醒リズムや概日リズムの調節に関わるホルモンです。メラトニンの作用は、細胞膜上に存在するGPCRファミリーに属するメラトニン受容体MT1とMT2によって伝えられます。
MT1受容体は、これまで主にcAMPを低下させるGiタンパク質経路を介して働く受容体として知られてきました。杏林大学医学部の大石篤郎講師、東京大学大学院理学系研究科の濡木理教授、九州大学大学院農学研究院の池上啓介准教授、フランスINSERM・Cochin研究所のRalf Jockers博士、イギリスQueen’s University BelfastのTikhonova博士らの共同研究グループは、MT1受容体がGiタンパク質経路だけでなく、cAMPを上昇させるGsタンパク質経路にも関与することを、細胞およびマウスを用いた解析により示しました(図1、図2)。さらに、クライオ電子顕微鏡(注2)を用いてMT1受容体とGsタンパク質が結合した複合体の立体構造を解明し、MT1受容体が異なるGタンパク質をどのように受け入れるのかを解析しました(図2)。
その結果、MT1受容体はGsタンパク質とGiタンパク質を同じように受け入れるのではなく、Gタンパク質のC末端α5ヘリックスを異なる位置・角度で受け入れていることが分かりました(図2)。さらに、もう一つのメラトニン受容体であるMT2がGsタンパク質と結合しにくい理由についても、クライオ電子顕微鏡による構造解析、細胞シグナル解析、コンピューターシミュレーションを組み合わせて検討しました。その結果、MT1とMT2の第三細胞内ループの違いが、Gsタンパク質との結合性の違いに関わることが示されました。この成果は、GPCRが複数の細胞内シグナルを使い分けるしくみの理解を深めるものであり、シグナル選択的な創薬にもつながる可能性があります。
本研究成果は、2026年5月21日に英国科学誌「Nature Communications」に掲載されました。
用語解説
注1 メラトニン受容体
・・・メラトニン受容体は、低分子リガンドを結合して従来からの主な創薬標的であるクラスA GPCRに分類され、メラトニンと結合することで活性化状態となり、アデニル酸シクラーゼを不活性化する抑制性Gタンパク質三量体(Giタンパク質三量体)を選択的に活性化します。メラトニン受容体にはMT1とMT2の2つのサブタイプが存在し、主に脳の視交叉上核に発現するMT1が、特に睡眠の誘導で重要な役割を果たすことが知られています。
注2 クライオ電子顕微鏡
・・・試料を急速凍結して自然に近い状態のまま観察し、分子の立体構造を高分解能で解析できる手法です。
論文情報
論文タイトル:Structural basis and physiological significance of non-canonical Gs coupling to the melatonin MT1 receptor
著者:Atsuro Oishi†,*, Hiroyuki H. Okamoto†, Keisuke Ikegami†, Ronan McHugh, Bernard Masri, Tsukasa Kusakizako, Kazuhiro Kobayashi, Akifumi Takaki, Angeliki Karamitri, Erika Cecon, Julie Dam, Miki Nagase, Irina G. Tikhonova, Osamu Nureki* & Ralf Jockers* (†;共同筆頭著者、*;責任著者)
掲載誌:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-026-73555-6
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