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Research Results 研究成果

高齢者の高血圧治療薬選択が認知症リスクに関連

医療ビッグデータの大規模分析から明らかに
医学研究院
福田治久 准教授
2026.08.21
研究成果Life & Health

概要

 野間久史 統計数理研究所/総合研究大学院大学教授、福田治久 九州大学大学院医学研究院准教授、砂田寛司 鳥取大学医学部附属病院講師らの研究グループは、高齢者における高血圧治療薬の選択が、その後の認知症発症リスクに与える影響について分析を行いました。
 認知症の予防は、世界的に進行する高齢化社会における最重要課題の一つです。新しい認知症治療薬の開発が進む一方で、すでに多くの高齢者が日常的に使用している薬剤の中に、認知症リスクを低減し得るものがあるかを明らかにすることは、公衆衛生上大きな意義を持ちます。
 本研究では、日本の自治体が保有する医療・健診情報を統合した500万人規模の大規模医療データベースであるLIFE Study※1をもとに、最新のデータサイエンスの方法である標的試験エミュレーション※2による、アンジオテンシン受容体拮抗薬※3(angiotensin receptor blockers; ARB)とカルシウム拮抗薬※4(calcium channel blockers; CCB)の比較分析を行いました。標的試験エミュレーションは、リアルワールドの医療ビッグデータから、可能な限り理想的なランダム化臨床試験※5を再現するための統計的因果推論※6の方法です。
 その結果、65歳以上で認知症のない高齢者52,019人のうち、ARBによる治療を新たに開始した群では、CCBによる治療を新たに開始した群と比較して、全認知症の発症リスクが有意に低いことが示されました。追跡期間中の血圧は両群でほぼ同等であったことから、この差は単なる血圧低下効果だけでは説明しにくく、ARBが持つ脳血管保護作用などが関与している可能性が示唆されます。特に、血管性認知症※7では、ARB群でリスクがより大きく低下していました。
 本研究は、高齢者が日常診療で広く使用している降圧薬の選択が、認知症予防につながる可能性を示したものです。また、500万人規模の医療ビッグデータを高度なデータサイエンスの方法で解析することにより、通常の臨床試験では検証が難しい高齢者医療の重要課題に対して、現実社会に根ざしたエビデンスを創出できることを示しました。
 本研究成果は、2026年8月20日に国際学術誌「Alzheimer’s & Dementia: The Journal of the Alzheimer’s Association」にオンライン掲載されました。

用語解説

※1 LIFE Study:
・・・自治体が保有する保健・医療・介護データを個人単位で統合し、20年間を追跡することを目指した大規模データベースプロジェクトです。九州大学との契約締結により学術利用することができ、本研究では統計数理研究所と九州大学との契約締結によりデータ利用が行われました。LIFE Studyの詳細はウェブサイトを参照ください(https://life.lifestudylab.org/)。
※2 標的試験エミュレーション(target trial emulation):
・・・リアルワールドにおける膨大な診療データなどを用いて、あたかも理想的なランダム化臨床試験を行ったかのようにデータを構成し、分析するデータサイエンスの方法です。実際の臨床試験が難しい条件下で、結論を歪め得るバイアスをできる限り制御しながら、治療効果に関するエビデンスを作り上げるために用いられます。
※3 アンジオテンシン受容体拮抗薬(angiotensin receptor blockers):
・・・アンジオテンシンIIという血圧を上げるホルモンの働きを、受容体の段階で抑えることで血管を広げ、血圧を下げる薬です。高血圧治療で広く用いられており、血圧低下に加えて、心臓、腎臓、血管への保護作用が期待されています。
※4 カルシウム拮抗薬(calcium channel blockers):
・・・血管の壁にある筋肉へのカルシウム流入を抑えることで血管を広げ、血圧を下げる薬です。降圧効果が安定しており、日本でも高齢者を含む多くの患者さんに使用されている代表的な降圧薬です。
※5 ランダム化臨床試験(randomized clinical trial):
・・・参加者をランダムに複数の治療群へ割り付け、治療効果を比較する臨床試験です。患者さんの背景因子の偏りを抑え、薬の効果を評価するうえで最も信頼性が高い研究デザインの一つとされています。
※6 統計的因果推論(statistical causal inference):
・・・単なる「関連」ではなく、「ある治療や曝露が、ある結果をどの程度引き起こしたか」という因果関係を、統計学的に評価するための方法論です。医療ビッグデータを用いた研究では、患者背景の違いによるバイアスを調整するために重要な役割を果たします。

論文情報

タイトル   Angiotensin Receptor Blockers and Dementia Risk in Older Adults: A Target Trial Emulation(高齢者におけるアンジオテンシン受容体拮抗薬と認知症リスク:標的試験エミュレーション)
著者      野間久史,砂田寛司,杉本大貴,藤澤貴央,小田太史,前田恵,福田治久
掲載誌   Alzheimer’s & Dementia: The Journal of the Alzheimer’s Association
DOI      10.1002/alz.71692