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Research Results 研究成果

世界56か国・地域の経済成長と脱炭素化の「進展過程」を解明

〜経済成長と脱炭素化を両立する鍵はグローバルサプライチェーンの再編と消費構造の転換〜
経済学研究院
加河 茂美 主幹教授
2026.08.18
研究成果Humanities & Social SciencesEnvironment & Sustainability

ポイント

  • 世界56か国・地域を対象に、経済成長とカーボンフットプリントの関係を長期的な「進展過程」として分析
  • 同程度の経済成長を遂げた国でも、カーボンフットプリントを削減・抑制した国と、増加し続けた国が存在することを明らかに
  • 経済成長と脱炭素化の両立を実現するには、グローバルサプライチェーンの再編と消費構造の転換が重要であることを示し、気候変動政策への新たな視点を提案

概要

 経済成長を維持しながらCO2排出量を削減する「デカップリング」の実現は、世界共通の重要課題となっています。これまでデカップリングは、一定期間における経済成長率と領域内(生産ベース)のCO2排出量の変化率を基に評価されることが一般的でした。しかし、この手法では、各国において経済成長と脱炭素化の関係が長期的にどのような過程をたどって変化してきたのか、すなわちデカップリングの進展過程を十分に捉えることが困難であるだけでなく、国際貿易を通じて他国へ移転した排出量(排出移転)を考慮することができませんでした。
 こうした背景のもと、九州大学大学院経済学府博士後期課程2年の西藤和佳大学院生と、同大学大学院経済学研究院の加河茂美主幹教授から成る研究グループは、2000~2021年の世界56か国・地域を対象に、経済成長とグローバルサプライチェーン全体を考慮したカーボンフットプリント(以下、CF)との関係を時系列で評価する新たなデカップリング分析手法を開発しました。さらに、CFの変化要因を分解分析することで、同程度の経済成長を遂げた国々の間で脱炭素化の成果に差が生じる要因を明らかにしました。
 分析の結果、経済成長とCFの関係には、複数の国に共通して見られるデカップリングの「進展パターン」が存在することが明らかになりました。また、同程度の経済成長を達成した国々を比較すると、CFの削減・抑制に成功した国がある一方で、CFが増加し続けた国も存在することが分かりました。さらに、その違いを生み出す主な要因は、グローバルサプライチェーン構造の変化と消費構成の変化にあることが示されました。
 これらの結果は、経済成長と脱炭素化を両立するためには、エネルギー効率や生産技術の向上だけでなく、どの国・地域から製品や部品を調達するかといったグローバルサプライチェーンの構築や、人々が何を消費するかという消費行動の変化にも着目した政策が重要であることを示唆しています。
 本研究は、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2136)および九州大学エネルギー研究教育機構FCVI推進事業推進モジュール経費の支援を受けて実施されました。本研究成果は、2026年7月27日に国際学術誌『Ecological Economics』(2025年インパクトファクター:6.7)に掲載されました。

本研究グループからひとこと

脱炭素化は、エネルギー効率や生産技術の向上だけでなく、どこで生産し、どこから調達し、何を消費するかといった社会や経済の仕組み全体を見直すことが重要です。本研究の成果が、経済成長と脱炭素化の両立に向けた議論や政策の検討に役立つことを期待しています。

参考図

図1. 経済成長とCO2排出量の関係の推移過程(2000–2021年)

図2. CO2排出量変化の要因分解:CO2排出量を削減・抑制した国(クラスター#4)と増加し続けた国(クラスター#5)

図表解説

 図1は、世界56か国・地域を対象に分析した、経済成長とCO2排出量の関係の進展過程のうち、複数の国に共通して見られたこの関係の推移パターンを示しています。横軸は経済成長を示す1人あたり国内総支出額の変化率、縦軸はグローバルサプライチェーン全体を考慮した1人当たりCO2排出量の変化率を示しています。図からは、2000–2021年の期間に同程度の経済成長を遂げた国々の間でも、CO2排出量を削減・抑制する経路と、増加し続ける経路が存在することが分かります。
 図2は、図1で示した経済成長と脱炭素化の「進み方」が異なる要因を明らかにするため、CO2排出量の変化要因を6つに分解したものです。比較対象として、経済成長率が近いにもかかわらず、CO2排出量を削減・抑制した国々からなるクラスター#4(ポーランド、エストニア、ブルガリアなど)と、増加し続けた国々からなるクラスター#5(韓国、タイ、フィリピンなど)を示しています。棒グラフは、CO2排出量の総変化(黄色)に対する各要因の寄与を示しており、緑色は排出削減、赤色は排出増加への寄与を表します。この図からは、排出強度の改善は両クラスターでCO2排出量削減に寄与した一方で、グローバルサプライチェーンの構造や消費構造の変化が、両者の脱炭素化の進み方を分ける重要な要因となったことが分かります。

論文情報

掲載誌:Ecological Economics
タイトル:Decoupling Transition Patterns in the Global Economy: A Multi-Regional Structural Decomposition Analysis
著者名:Waka Nishifuji, Shigemi Kagawa
DOI:10.1016/j.ecolecon.2026.109180