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Research Results 研究成果

フェリ磁性絶縁体を用いた異常ホール効果で二段階符号反転を観測

~GGG基板上のTmIG/Ptで初観測、超高速・省エネなメモリ素子の設計指針に~
システム情報科学研究院
山下尚人 准教授
2026.09.01
研究成果Physics & ChemistryMaterialsTechnology

ポイント

  • 2種類の磁気モーメントが共存するフェリ磁性体は、磁化が打ち消し合う「補償点(磁気補償点)(※1)」の近くで、熱安定性の向上および漏れ磁場がゼロとなることが知られています。このうち、ツリウム鉄ガーネット(TmIG)では、補償点を見いだす原理の解明が望まれていました。

  • 本研究では、TmIG薄膜と白金(Pt)を重ねたTmIG/Pt二層構造で異常ホール効果(※2)の符号が温度によって2度反転することを、ガドリニウムガリウムガーネット(GGG)基板上で初めて観測しました。
  • 今後、超高速・省エネなスピントロニクス(※3)応用に向けた材料設計の指針となることが期待されます。

概要

新たなスピントロニクス材料として「フェリ磁性絶縁体(※4)」が注目されています。フェリ磁性体は2種類の磁化成分が互いに打ち消し合う補償点をもつことがあります。電流制御可能なフェリ磁性絶縁体材料であるツリウム鉄ガーネット(TmIG)では、2種類の磁化成分の結びつきが弱いにもかかわらず、薄膜に格子歪み(ひずみ)(※5)を加えることで磁気補償に似た現象が現れることが特殊な基板を用いて発見されたため、より一般的な基板上でこれを実現する方法が模索されていました。

九州大学大学院システム情報科学研究院の山下尚人(ヤマシタ ナオト)准教授らとスウェーデン・チャルマース工科大学の研究グループは、スパッタリング法を用いてTmIGを薄膜化することにより、この現象の観測に成功しました。ガドリニウムガリウムガーネット(GGG)基板の上にTmIG薄膜と白金(Pt)を重ねた試料を作製しました。温度を変えて異常ホール効果を測定したところ、異常ホール効果による信号の向きが2度反転しました。ある温度では磁化は室温の100万分の3程度と見積もられ、補償点に近い状態を捉えたといえます。また、今回の試料では格子歪みが先行研究の約3分の1に抑制されており、観測された現象は格子歪みだけでは説明できない結果です。

本研究成果は、2026年9月1日(火)の23時にAPL Materials誌に掲載されました。

図1 作製した素子の模式図(白金(Pt)/ツリウム鉄ガーネット(TmIG)/ガドリニウムガリウムガーネット(GGG)基板の積層構造の模式図。)

図2 電気信号の向きが2回反転する様子(異常ホール効果による信号。250 K、2 Kでは反時計回り、100 Kでは時計回りとなった。)

研究者からひとこと

スパッタリング法の特徴を生かしてTmIGという興味深い材料の新たな性質を垣間見られました。共同研究者および支援者に感謝し、引き続き現象の解明に取り組んでまいります。

(山下尚人准教授)

用語解説

(※1) 補償点(磁気補償点)
2種類の磁化成分の強さがちょうど釣り合い、全体としての磁化がゼロになる温度。この温度の近くでは磁化が磁場に対して安定となり、漏れ磁場も抑制されるため、高集積化された磁気メモリの動作点として注目されている。

(※2) 異常ホール効果
磁石の性質をもつ物質に電流を流して磁場をかけると、電流と磁場の両方に垂直な向きに電圧が生じる現象。電圧の符号と大きさから、微小な試料の磁気の状態を電気的に調べることができる。

(※3) スピントロニクス
電子がもつ電荷だけでなく、磁化の起源である「スピン」も利用して情報を扱う技術分野。低消費電力・不揮発性のメモリなどへの応用が期待されている。

(※4) フェリ磁性絶縁体
電気を通さない絶縁体であり、磁石の性質をもつ物質。内部に向きの異なる2種類の磁石成分をもち、その差が全体の磁力となる。本研究のツリウム鉄ガーネット(TmIG、Tm₃Fe₅O₁₂)は、希土類鉄ガーネットと呼ばれる仲間の一つ。

(※5) 格子歪み
薄膜が基板の上で結晶を成長させる際、基板と薄膜の原子の間隔の違いによって薄膜の結晶が引き伸ばされたり縮められたりすること。磁気特性を左右する重要な要因となる。

論文情報

掲載誌:APL Materials
タイトル:Observation of double anomalous Hall polarity reversals with temperature in an ultrathin ferrimagnetic insulator
(極薄フェリ磁性絶縁体における異常ホール効果の二度の極性反転の観測)
著者名:Ivo P. C. Cools, Jinyu Xu, Lei Yan, Divya P. Dubey, Saroj P. Dash, Naoto Yamashita
DOI:10.1063/5.0328123