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Research Results 研究成果

すべてのイオン伝導体がメモリになりうる

結晶構造の制約を打破し、イオンの偏りで分極を生み出す新たな材料の創出
理学研究院
大谷亮 准教授
2026.09.18
研究成果Physics & ChemistryMaterials

ポイント

  • 本来は強誘電性を示さない”ただの”プロトン伝導体が、電場により方向を反転可能かつ超巨大な分極現象を示すことを発見。
  • 単結晶を用いた特性評価により、従来の強誘電体の約17,000倍に達する 438 mC/cm2 という超巨大な残留分極値を達成。

研究内容と成果

 外部電場(電圧)の向きに応じて、電気的な偏り(分極)の方向を反転・保持できる強誘電体は、各種センサーや不揮発性メモリ、エネルギーハーベスティングなど、様々な分野で活躍が期待される極めて重要な機能性材料です。しかし、従来の強誘電体の設計は「空間反転対称性の破れ*1」に基づいており、結晶学的な厳しいルールに縛られていました。
 今回、九州大学大学院理学研究院の大谷亮准教授、大学院理学府の時雨新氏(博士後期課程)、柳澤純一氏(2023年3月博士課程卒業)、大学院理学研究院のLe Ouay Benjamin(ルウェ バンジャマン)助教、大場正昭教授らは、東京理科大学の並木智哉氏、小林文也講師、田所誠教授、九州大学大学院総合理工学研究院の辻雄太教授、九州大学中央分析センターの荻原直希准教授らと共同で、空間反転対称性の破れていないプロトン伝導体 Na2MnN(CN)4×3.25H2O を開発し、電圧を印加することで極めて巨大かつ反転可能な分極特性を発現することを見いだしました(参考図1)。この強誘電体とも類似した「強誘電イオン伝導体*2」の分極現象は、電場により伝導したプロトンが結晶内で偏るイオンバイアス状態が生じることで発現しており、電場を取り除いた後も保持されることを明らかにしました。その分極値は、結晶の[010]方向において、室温・相対湿度80%・周波数0.01 Hzの条件下で、438 mC/cm2 と超巨大であり、代表的な酸化物強誘電体であるチタン酸バリウム(BaTiO3, 26 µC/cm2)の約17,000倍に達しました。
 本成果は、「極性結晶構造に依存する」という従来の強誘電体設計の制限を打破し、非極性結晶であってもイオン伝導と協同的なイオン変位を巧みに組み合わせることで、超巨大な極性機能を創出できることを実証したものです。すなわち、「すべてのイオン伝導体が分極機能を示しうる」可能性を示唆しています。
 本研究成果は、2026年9月18日(金)正午(日本時間)にアメリカ化学会(ACS)の国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載予されました。

(参考図1) 今回報告したNa2MnN(CN)4・3.25H2Oの結晶構造と強誘電ヒステリシス*3。

研究者からのひとこと

2024年に初めてイオン伝導体の分極現象を報告しました。当初は、極性構造が必要だと考えていました。私自身、分極=空間反転対称性の破れという考えに囚われていたのだと思います。それが、ふとした時に「もしや、イオンの流れだけで良いんじゃないか」と思ったのが本研究の始まりです。機能性としては、強誘電イオン伝導と名付けましたが、実はエレクトレットに近しいものだとも考えています。きちんとしたメカニズムはいまだ不透明で、今後さらに検討が必要です。ただのイオン伝導体でも安定かつ反転可能な分極機能を示しうることを示した今回の結果が新しい機能性材料領域を拓くと期待しています。(大谷亮准教授)

用語解説

(※1) 空間反転対称性の破れ:ある対象物を左右・上下・前後の方向をすべてひっくり返した時に、元の状態と異なる状態になる現象。従来の強誘電体は、空間反転対称性の破れにより自発分極を持ち、電場により分極方向を反転することができる。

(※2) 強誘電イオン伝導体:イオン伝導性(固体電解質としての性質)を持ちながら、外部電場によって電気分極を反転・保持できる強誘電的なふるまいをする新奇な機能性材料。伝導イオン種がプロトン(水素)の場合、強誘電プロトン伝導体とも呼ぶ。

(※3) 強誘電ヒステリシス:材料に対して、ある周波数で電界を加えたときに生じる分極変化の様子。強誘電体の機能性を調べる上で、最初に調べることが多い。

論文情報

掲載誌:Journal of the American Chemical Society
タイトル:Multidirectional Colossal Polarization in a Centrosymmetric Crystal via Long-Range Ion Displacement
著者名:時雨新・柳澤純一・並木智哉・小林文也・田所誠・辻雄太・荻原直希・Le Ouay Benjamin・大場正昭・大谷亮
DOI:10.1021/jacs.6c12413