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Research Results 研究成果

極薄イリジウムマンガン層によるスピン輸送の増強

島状構造がスピン流の高効率輸送を実現
システム情報科学研究院
湯浅裕美 教授
2026.10.28
研究成果Physics & ChemistryMaterials

ポイント

  • 情報量の急増に伴い、低消費電力で動作する次世代情報デバイスの実現が求められている。
  • 極薄のイリジウムマンガン層を挿入するとスピン流の伝播効率が向上し、その要因が島状構造にあることを解明。
  • メカニズム解明に近づいたことで、元来微弱なスピン流を使いこなす指針が立った。

概要

 電子の角運動量の流れで説明されるスピン流は、電子自体の動かない流れとして新しい超高度情報社会を担う有力候補として期待されています。スピン流は電流などエレクトロニクスで用いる一般的な物理量に置き換えて使いますが、その変換効率は現状低いため、大きな改善の余地がありました。
 今回、磁石になる物質である磁性体と磁石につかない非磁性体の界面に着目し、1原子層レベルの極薄層を挿入することで、スピン流の伝播効率が上がることを示しました。
 九州大学大学院システム情報科学研究院の湯浅裕美教授、黒川雄一郎助教、大学院工学府博士課程3年のAmirah Zahrin、修士課程2年の佐原脩飛らの研究グループは、磁性体の中で熱流によるスピンゼーベック効果(※1)により生成したスピン流を電流として取り出す実験と、非磁性体の中でスピンホール効果により生成したスピン流を磁性体のスピンと相互作用させるスピンホール磁気抵抗効果(※2)の解析を突き合わせ、極薄イリジウムマンガン(IrMn)合金層によるスピン伝播効率の増加を示しました。加えて、ナノ構造解析を用い、キーとなるのは極薄イリジウムマンガン(IrMn)合金層が島状を成すことであることを見出しました。
 今回の発見は、電子のスピンという性質を使うデバイス実現に役立つことが期待されます。
 本研究成果はオランダElsevierの雑誌「Material Physics Today」に2026年9月30日(水)(日本時間)に掲載されました。

参考図:島状IrMn層によるスピン流輸送の制御

不連続な島状をなす、ごく薄いIrMnがスピンの輸送効率を向上します。

研究者からひとこと

磁性体と非磁性体の界面エンジニアリングに着目してスピン流を使いこなすための研究を続けています。その中で、ごく薄いIrMn層によってスピン流の輸送効率が上がることが示されました。元来微弱なスピン流を増強できれば、我々の世界を支える電子デバイスにおいて、電子の回転の力を使える可能性が高まります。(湯浅裕美)

用語解説

(※1) スピンゼーベック効果
磁性体に熱勾配を与えたときに、熱流に沿ってスピン流が生成される現象です。スピン流は電子のもつ角運動量の伝播であり、電荷そのものが輸送されるものではありません。このため酸化物磁性体の中でもスピン流が発現します。重金属にスピン流が伝わって電流に変換され、熱起電力を取り出すことができます。

(※2) スピンホール磁気抵抗効果
非磁性金属に流した電流が電子のスピンと軌道の相互作用によりスピン流に変換され、それが隣接する磁性体の磁化の向きに応じて反射し、さらに電流に再変換されることで電気抵抗が変化する現象です。

論文情報

掲載誌:Material Today Physics
タイトル:Role of ultrathin IrMn layer between Y3Fe5O12 and Pt in enhancement of spin Seebeck effect and spin Hall magnetoresistance
著者名:Amirah Zahrin, Shuto Sahara, Yuichiro Kurokawa, Hiroki Hanamoto and Hiromi Yuasa
DOI:10.1016/j.mtphys.2026.102247