Research Results 研究成果
九州大学大学院人間環境学研究院の山口裕幸教授と人間環境学府博士後期課程3年の宮島健らの研究グループは、日本において20代~40代の男性の多くは「男性の育児休業」を肯定的に捉えているにもかかわらず、同年代の他の男性が抱いている「男性の育児休業」に対する考えを実際よりも否定的に思い込むことが、育児休業の取得を抑制していることを明らかにしました。
日本における男性の育児休業取得率は、長期にわたって低迷してきました。かつては、「男は仕事、女は家庭」という性役割分業的な価値観が優勢でしたが、近年ではそうした考え方が薄れてきていることが示唆されています。男性個々人の価値観は変化しているにもかかわらず、なぜ取得率が伸び悩んでいるのかは十分に理解されていませんでした。
本研究では、育休取得率の低迷の一因として、社会心理学的現象である「多元的無知」(多くの人々がある特定の価値観や意見を受け入れていないものの、“自分以外の他者はそれを受け入れているのだろう”と誤って思い込んでいる状況)に着目し、20代~40代の日本人男性を対象としたweb調査によるデータ収集と統計的分析を用いて、男性の育児休業との関連性を検討しました。
その結果、多くの男性は自分よりも他者の方が男性の育休に対して否定的だと推測しており(図1)、“自分も他の男性も育休を肯定的に捉えている”と回答した人々(自他ポジティブ群)と、“自分は肯定的だが、他の男性は否定的だろう”と回答した人々(多元的無知群)とで“取得願望の強さ(どれくらい取得したいか)”に差はみられなかったものの、“実際に子供が生まれたときの取得意図(実際に取得するかどうか)”は、多元的無知群の方が低いことが明らかになりました(図2)。つまり、取得願望は高いにもかかわらず、他者が育休に否定的だと思い込むことで取得を控えてしまう傾向があると示されました。
本研究結果は、男性の育休取得率の改善に向けた方略を策定する上で、役立つ知見であると期待されます。日本における男性の育休取得率の低迷に多元的無知が関与しているという新しい視点を与えた本研究は、2017年9月20日(水)午後1時(日本時間)に科学雑誌「Frontiers in Psychology」でオンライン公開(doi:10.3389/fpsyg.2017.01508)されました。
(図1)男性の育児休業における多元的無知
(図2)群ごとの取得意図の違い
社会心理学は日常に潜んでいます。常識に縛られずに物事を違った角度からみつめることで、対象をより深く理解でき、興味深い事実を発見できるかもしれません。