Research Results 研究成果

神経活動の抑制を鋭敏に捉える新規カルシウムセンサーの開発 ~細胞の機能解析への応用も可能~

2018.04.26
研究成果Physics & Chemistry

 脳の神経回路では、主に「興奮」と「抑制」の2種類のシナプス伝達を組み合わせて情報を処理しています。この情報処理を担う神経細胞の活動は、遺伝子にコードされたカルシウムセンサー(GECI)を使って細胞内のカルシウムイオンの濃度変化(興奮状態で濃度が高くなる)により観察することができます。しかし、これまではGECIを用いた場合、「神経活動の興奮」を測定することが中心となっていました。
 九州大学大学院理学研究院の石原健教授のグループと大阪大学産業科学研究所の永井健治教授のグループはこれまで困難であった「神経活動の抑制」を鋭敏に測定することができる新しいGECIの開発に成功し、IP2.0と名付けました。
 神経細胞にGECIを発現させると、神経活動に応じて細胞内のカルシウムイオンの濃度変化が、蛍光強度の変化として観察できます。これまでのGECIはカルシウムイオン濃度の上昇に伴い蛍光が強くなるため、細胞内のカルシウムイオン濃度の減少を捉えることには適していませんでした。今回開発したIP2.0は、これまでのGECIとは反対の性質を持ち、カルシウムイオン濃度の減少に伴い蛍光が強くなります。これにより、細胞内のカルシウムイオン濃度の減少および増加を正確に捉えることができるようになりました。
 実際にIP2.0を線虫の神経細胞に発現させ、細胞内のカルシウムイオン濃度の減少を測定したところ、神経活動の抑制を鋭敏に観察可能なことが確認できました。今後、このIP2.0を用いて、これまで観察しづらかった細胞内カルシウムイオン濃度変化をより正確に測定できるようになり、新たに神経回路の機能や細胞の機能が解明されることが期待されます。
 本研究は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「生命動態の理解と制御のための基盤技術の創出」(研究総括:山本 雅 沖縄科学技術大学院大学 教授)、「新たな光機能や光物性の発現・利活用を基軸とする次世代フォトニクスの基盤技術」(研究総括:北山 研一 光産業創成大学院大学 特任教授)、および日本学術振興会 科学研究費の支援を受けました。
 本研究成果は、2018年4月25日(水)午後2時(米国東部夏時間)付け科学雑誌PLOS ONEに掲載されました。http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0194707

参考図

研究者からひとこと

これまでの興奮性の神経活動を測定するカルシウムセンサーと組み合わせることによって、神経活動の興奮と抑制を同時に測定し、情報処理の全体像を解析できると大いに期待しています。

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