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大腸がんの腫瘍内多様性の獲得原理を説明する新たな進化モデルを構築 ~腫瘍内多様性を伴う難治がんを克服する次世代のがん治療法開発に期待~

2018.07.24
研究成果Life & Health

 一人のがん患者の腫瘍の中には異なる遺伝子変異をもつ複数の細胞集団が存在することが知られています。この現象は腫瘍内多様性と呼ばれ、がんの難治性の一因と考えられています。しかし腫瘍内多様性の獲得原理の詳細については解明されていませんでした。九州大学の三森功士教授の研究グループは、東京大学の宮野悟教授、新井田厚司助教、大分大学の村上和成教授、齋藤衆子医員らと共に、大腸がんの腫瘍内多様性の獲得原理を説明する新たな進化モデルを構築しました。
 本研究では、以前の先行研究 (Uchi R.,et al. PLoS Genet. 2016) で取得した進行大腸がんデータに加えて、早期大腸がん患者10人から得た各腫瘍の複数箇所から次世代シーケンサーを用いて包括的遺伝子変異データを取得し、両データを合わせてスーパーコンピュータを用いた数理統計解析を行いました。その結果、早期がんではがん細胞の増殖、生存に有利に働く複数のドライバー変異(がんの発生・進展において直接的に重要な役割を果たす遺伝子変異)が一腫瘍内に散在し、自然選択を受ける「ダーウィン進化」から、進行がんにおいてはがん細胞の増殖、生存には影響を与えない無数の中立変異(正や負の自然選択に関わらず自然に起こる突然変異)が蓄積する「中立進化」によって、腫瘍内多様性が創出されており、進化のパターンは変化していることが明らかになりました。また早期がんに比べて進行がんでは有意に染色体コピー数異常が多いことも明らかとなり、染色体コピー数異常がこの「進化シフト」の引き金となっている可能性を見出しました。
 本研究の成果は腫瘍内多様性を伴う難治がんを克服する次世代のがん治療法開発の基礎になるものと期待されます。
 本研究の成果はNat Communに平成30年7月23日(月)(日本時間)に掲載されました。

参考図:がんは一つの正常細胞が遺伝子変異を蓄積し、進化することにより生じるが、この進化の際に、異なる遺伝子変異を蓄積することにより腫瘍内多様性が獲得される。本研究では、大腸がん発がん過程においては、複数のドライバー変異が自然選択されることによる「ダーウィン進化」から、進行がんになると無数の中立変異の獲得による「中立進化」へ腫瘍内多様性の獲得原理が「進化シフト」を起こすことにより難治化することを発見した。

研究者からひとこと

本研究を通じて、がんの複雑な生存戦略を目の当たりにしました。腫瘍がまだ良性の段階では、栄養不足などの過酷な環境で生き延びるためドライバー変異を十分に獲得する必要があります。生き残った強い細胞は、増殖する過程でそれぞれ多様な中立変異を獲得し、治療抵抗性を示すがん細胞も生まれます。強かに生き残るがんの克服にこの研究が少しでも役立てば幸いです。

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