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Cu-Sn系金属間化合物中に微量添加した元素の位置決定に世界で初めて成功 〜原子レベルの電子顕微鏡解析による新たな材料開発に期待~

2018.08.23
研究成果Materials

 九州大学超顕微解析研究センターの松村晶センター長、楊文慧、麻生浩平工学府博士課程学生、山本知一工学研究院学術研究員の研究グループは、豪国クイーンズランド大学の野北和宏教授らと共同して最先端の電子顕微鏡解析研究に取り組み、銅(Cu)と錫(Sn)の化合物結晶(η-Cu6Sn5)にわずか5%添加されたニッケル(Ni)原子の位置を決定することに世界で初めて成功しました。
 鉛が有毒であるためにSnを主成分にした鉛を含まないハンダが世界的に広く使われるようになってきました。η-Cu6Sn5化合物はCuが主要元素の電子基板や配線とハンダとの溶融接合部で形成されますが、その結晶構造が約180 ℃を境に変化して体積も大きく変動するために、接合後の冷却や通電による加熱・冷却を繰り返すと接合部が破断する危険性がありました。最近、Niを数%ほど少量添加すると、結晶構造の変化が抑えられて接合部の安定性が大幅に改善されることがわかってきました。Niを含むη-Cu6Sn5化合物は、リチウムイオン電池の安定した信頼性の高い新たな電極材候補としても注目されています。
 本研究では、電子線を原子より小さい領域に絞って化合物結晶に照射して発生してきた微弱なX線を高い感度で捉えるとともに、実験データに含まれるノイズを的確に除去する先端的な数理データ処理を駆使することで、Ni原子がCu2と呼ばれる結晶格子点に位置することを突き止めました。このようにNi原子位置が実験で直接明らかにされたのは世界で初めてであり、この成果によってη-Cu6Sn5化合物結晶の安定化機構の原理解明が進み、さらに高性能な材料開発が前進することが期待されます。本研究で培った実験手法は他の様々な化合物結晶の構造解析にも広く応用できます。微量元素を含む化合物結晶の構造解析に新たな可能性を拓いたこの成果は、様々な研究分野でも大きなインパクトを与えることでしょう。
 本研究成果は、2018年8月17日(金)に材料科学分野で最も注目度の高い学術雑誌の一つである「Scripta Materialia」のオンライン速報で公開されました。

参考図:Cu6Sn5化合物はハンダボールとCu基板の溶融接合部に形成されます。上段は電子顕微鏡の結晶構造像(HAADF)とSn, Cu, Ni原子のX線マップ(原データ)です。Sn LとCu KではSnとCuの原子配列が明るい箇所の整列でわかりますが、Ni Kではノイズに埋もれてその位置は不明です。主成分数理解析でノイズ処理を行った結果(下段)では各元素に特徴的なパターンが明確に現れて、NiがCu2結晶格子点に存在していることが明瞭に示されています。

研究者からひとこと

 図に見られるように一見してノイズだらけの画像から、最新の数理データ処理を施すことによってNi原子の明確な原子配置が浮かび上がってきた時には、少なからず感動を覚えました。これには、数理データ処理法の発展だけでなく、電子顕微鏡の感度や安定性が大きく進歩して基となるデータの信頼性が著しく向上したことも主な要因です。このような原子レベルの構造解析の高度化を今後とも進めていき、新たな材料開発に貢献していきます。

論文情報

Atom locations in a Ni doped η-(Cu,Ni)6Sn5 intermetallic compound ,Scripta Materialia,
10.1016/j.scriptamat.201808.020

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