Research Results 研究成果
電気エネルギーを光に効率良く変換する有機ELに大きな注目が集まっており、ディスプレイや照明などとして既に実用化が進んでいます。有機分子は高い発光量子収率を示す優れた発光体ですが、電気を流しにくいという性質を持ちます。このため、有機ELには100nm程度(髪の毛の太さの約1/800)の薄い有機膜を用いて、電気を強制的に流す必要がありました。このような極めて薄い有機膜は大面積で均一に形成させることが難しいという問題がありました。
九州大学の松島敏則准教授と安達千波矢教授らの研究グループは、有機発光層を金属ハライドペロブスカイト層で挟んだ有機ELを開発しました。ペロブスカイトの電気を流しやすい性質と簡単に薄膜化できるという性質を利用して、有機EL中のペロブスカイトの総膜厚を2,000nmに増加させました。従来の有機ELよりも10倍以上厚いにもかかわらず、優れた発光効率、駆動電圧、耐久性が得られることを見いだしました。
本研究成果を活用すれば有機EL製品を安価に再現性良く作製できるようになるため、産業分野に大きなインパクトがあります。レーザー、メモリー、センサーなどの他の有機デバイスに応用することも可能です。
本研究成果は科学技術振興機構(JST)ERATO「安達分子エキシトン工学プロジェクト」(JPMJER1305)の一環で得られ、また、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所、日本学術振興会科学研究費(15K14149、16H04192)、キヤノン財団の支援を受けました。本研究成果は、令和元年7月30日(火)午前0時(日本時間)に『Nature』誌でオンライン公開されました。
(参考図)有機発光層として高い発光効率を示すイリジウム化合物や熱活性化遅延蛍光化合物を用いました。その両端に、電気を流しやすく透明な金属ハライドペロブスカイト層を設置しました。従来の有機ELよりも10倍以上厚いにもかかわらず、最大で40%の極めて高い外部量子効率が得られました。また、ペロブスカイト層の膜厚を調整することにより、発光スペクトルの角度依存性を完全に消失させることに成功しました。斜めから見ても色味が変化しない高性能ディスプレイを作製するために必要不可欠な技術です。
現在の有機ELの基本構造が見いだされてから約30年間、「有機ELには薄い有機膜を用いなければならない」と考えられてきました。発光の機能を有機分子に、電気を流す機能をペロブスカイトに分担させることによって、この既成概念を覆すことに成功しました。様々な新規材料群を開拓・融合させることによって、既存の産業構造を転換させるようなニューコンセプトを提案します。