Research Results 研究成果

世界初!アルミニウムを含む三重らせん型色素からの円偏光発光を実現

〜セキュリティ材料やバイオイメージング技術への応用に期待〜 2020.11.02
研究成果MaterialsTechnology

 九州大学大学院工学研究院の小野利和助教、久枝良雄教授、石濱航平大学院生らの研究グループは、大分大学の原田拓典准教授、北里大学の長谷川真士講師、兵庫県立大学の阿部正明教授らとの共同研究により、安価で豊富なアルミニウムを含む三重らせん型色素を世界で初めて開発し、紫外光照射下で多様な発光色を示す円偏光発光材料の創製に成功しました。円偏光発光とは、左回転もしくは右回転の偏りを持つ光のことであり、セキュリティ分野などの次世代光情報技術への応用が期待されています。従来の円偏光発光材料は、多くの段階で煩雑な有機合成を必要とすること、高価なキラル分子や希少金属(レアメタル・レアアース)を必要とすることが問題点でした。
 本研究の三重らせん型色素は、単純なピロール誘導体、ヒドラジン、塩化アルミニウム等の市販試薬からわずか2回の工程で合成可能であり、優れた熱耐久性と高い蛍光量子収率を示します。らせん構造を持つDNAや蛋白質を高選択的に染色する可能性も秘めており、新たなバイオイメージング技術への応用が期待されます。
 本研究成果は、2020年10月16日(金)にドイツの国際学術誌 「Angewandte Chemie International Edition」にオンライン掲載されました。
 本研究は、科研費新学術領域“ソフトクリスタル (領域代表 加藤昌子)”、“配位アシンメトリ(領域代表 塩谷光彦)”、若手研究A、挑戦的研究(萌芽)、豊田理研スカラー事業、および九州大学QRプログラムの支援のもとで行われたものです。

(参考図)本研究で開発したアルミニウムを含む三重らせん型色素の代表的な分子構造。右巻きと左巻き螺旋が存在し、分割することで、それぞれが円偏光発光を示す。分子修飾により、紫外光照射下において多様な発光色や白色発光を示す。

研究者からひとこと

資源の少ない日本において、レアメタル等の希少元素の代替物質を探る元素戦略が注目を集めています。 本研究は、地殻中に最も多く存在する金属元素であるアルミニウムを用いて、簡便かつ高機能な材料の創製を達成することができました。今後も分子デザインに磨きをかけ、実社会に役立つ分子を生み出したいと考えています。

 

【用語解説】
*1 三重らせん型色素
三つ編み構造で形成された色素。三重らせんは、天然ではコラーゲンの構造に見られる。
*2 キラル分子
ある構造を鏡に映した際、得られる構造が元の自分自身と重ね合わせることのできない分子。
*3 レアメタル・レアアース
地球上で採掘可能な量が少なかったり、様々な理由から流通量や使用量の少ない希少な元素のことをレアメタルと呼ぶ。なかでもレアメタルの一部の元素(希土類)は、レアアースと呼ばれる。
*4 ピロール誘導体
五員環構造を持つ複素環芳香族化合物。光合成色素であるクロロフィルや天然色素のビタミンB12などに含まれる化学構造の1種である。
*5 ヒドラジン
分子式N2H4で表される無機化合物。液体燃料としても利用される。

 

論文情報

タイトル:Dinuclear Triple‐Stranded Helicates Composed of Tetradentate Ligands with Al(III) Chromophores: Optical Resolution and Multi‐color Circularly Polarized Luminescence Properties
著者名:Toshikazu Ono Kohei Ishihama Ai Taema Takunori Harada Kiyonao Furusho Masashi Hasegawa Yuki Nojima Masaaki Abe Yoshio Hisaeda
掲載誌:Angewandte Chemie International Edition
DOI:10.1002/anie.202011450

研究に関するお問い合わせ先

工学研究院 小野 利和 助教