Research Results 研究成果
【背 景】
有機 EL 素子は自発光型面発光デバイスであり、有機材料の軽量・フレキシブル性を生かすことで各種ディスプレイとして実用化され、私たちの日常生活において広く普及しつつあります。しかし現在までに実用化されている有機 EL 用発光分子は、1) 青色有機EL 素子の発光効率が比較的低いこと、2) 高効率青色素子の耐久性が低いこと、3) イリジウムなどのレアメタルを含むため材料コストが高いことなどの問題があります。このような現状において熱活性化遅延蛍光(TADF)*1)を示す有機発光色素は、イリジウムなどのレアメタルを必要とせずともほぼ100%の効率で電気エネルギーを光エネルギーへ変換できることから、次世代有機 EL 用発光材料として大きな注目を集めており、世界中で熾烈な研究・開発が進められています。しかし、一般的なTADF 分子の発光スペクトル幅はおよそ 50 nm 以上と広く、高い色純度が要求されるディスプレイ用途には発光スペクトルの狭線化が求められています。さらに、実用化に耐えうる素子耐久性の実現も必要不可欠です。
【内 容・効 果】
そこで、高い発光効率・色純度・素子耐久性を併せ持つ高性能な青色有機 EL 素子を実現することを目指し、九州大学最先端有機光エレクトロニクス研究センター(安達センター長、中野谷准教授、Chan研究員、田中研究員ら)と関西学院大学(畠山琢次教授)の研究グループは共同で研究を進めました。
本研究では、九州大学の研究グループが開発した新規スカイブルーTADF 分子(HDT-1)と、関西学院大学の畠山らが開発した DABNA 誘導体(-DABNA)を組み合わせ、HDT-1 分子上で生成したエネルギ ーを-DABNA 分子へと移動させるHyperfluorescence 機構*2)を用いることで、スカイブルー発光から純青色発光へと効率的な色変換を実現するとともに、高い発光効率・色純度・素子耐久性を併せ持つ高性能な青色有機EL 素子の開発に成功しました。試作した青色有機EL 素子は、シングル素子で最大27%、タンデム素子で最大 41%の高い外部 EL 量子効率を示す【図a】と同時に、非常に狭い半値全幅(< 20 nm)の EL スペクトル(CIE 色度 [0.13, 0.16])を示しました【図b】。さらに、本青色有機EL 素子は、初期輝度1,000 cd/m2 における5%輝度劣化時の時間が10 時間以上(実用輝度100 cd/m2 では300 時間以上)と、高効率青色有機 EL 素子としては飛躍的に高い駆動安定性を示すことを明らかにしました【図c】。
【今後の展開】
今後、TADF 分子・青色蛍光分子・EL 素子構造、それぞれの側面から研究開発を行うことによって、さらなる素子耐久性の向上が期待でき、ディスプレイの超低消費電力化に寄与する次世代青色有機 EL素子の早期実用化を目指します。
【用語解説】
*1 熱活性化遅延蛍光(Thermally Activated Delayed Fluorescence:TADF)
有機分子の励起状態には、一重項励起状態(S1)と三重項励起状態(T1)の2つのスピン多重度の異なる状態が存在しますが、電子とホールの再結合による励起子生成過程では、スピン統計則に従 って、一重項励起子が 25%の確率で生成され、三重項励起子が 75%の確率で直接生成されます。 TADF過程は、励起三重項状態から励起一重項状態への逆エネルギー移動を熱活性化によって生じさせ、蛍光発光に至る現象を示します。そのため、通常は発光として利用できない T1 のエネルギ ーを遅延蛍光として利用することが可能となります。
*2 Hyperfluorescence機構
蛍光分子を発光材料とする有機EL素子中にTADF材料をアシストドーパントとして分散することで、電気励起下で TADF 分子上にて生成された三重項励起子と一重項励起子を、すべて蛍光分子へエネルギー移動させることが可能になり、ほぼ 100%の効率で蛍光分子からの発光を得ることができる。本手法では、最終的に励起子を光にする発光材料として電気化学的に高い安定性を有する蛍光分子を用いることから、素子の駆動耐久性も著しく向上でき、レアメタルを含有する発光材料を使用することなく、合成化学的に自由度の高い分子設計が可能な TADF および蛍光分子によって、高効率EL 発光と高耐久性を両立させることが可能になる。