Research Results 研究成果
九州大学大学院生物資源環境科学府の田口佑充大学院生、同大学院農学研究院の稲生雄大助教、髙橋秀之准教授らは、みらいグローバルファーム(株)、伊藤ハム(株)、日本農産工業(株)、理化学研究所、日環科学(株)、千葉大学大学院と共同研究を実施し、哺乳期の代用乳多給を通して黒毛和種メス仔牛の初産分娩月齢を早期化させることに成功しました。
肉牛生産現場では仔牛の減少に伴う仔牛取引価格の高騰が問題になっています。解決には母牛の生涯産仔数を増やすことが望まれますが、それには早期に人工授精(AI:Artificial insemination)が可能な体格を獲得させて初産分娩月齢を早める必要があります。田口大学院生らは哺乳期の代用乳多給がメス仔牛の発育(特に体高)を向上させる可能性に着目し、代用乳多給によって初産分娩月齢を早期化できると推測しました。しかし、代用乳多給は標準的なプランが確立されておらず、増体および繁殖成績に及ぼす影響は不明でした。
そこで本研究は、生後3日齢の黒毛和種メス仔牛51頭を3種の異なる代用乳多給プランで飼養管理し、増体および繁殖成績を検討しました。試験の結果、AIが可能な体格は体重270kg以上、体高116cm以上であることを明らかにしました。また、試験に供試した51頭のうち7割以上のメス仔牛が代用乳多給により10か月齢時に上記のAIに必要な体格の条件を満たし、51頭の初産分娩月齢平均は22.1か月齢となりました。これは令和2年度の全国平均である24.5か月齢より2か月以上短いことになります。また、3種類の代用乳の多給プランの違いによる初産分娩月齢の比較では、最も早期化できたプランでは21.5か月齢となり、代用乳の多給プランによっては全国平均よりも3か月短くできる可能性も示唆され、新生仔牛にも問題はありませんでした。一方で、農林水産省が提言している初産分娩月齢の数値目標である23.5か月齢よりも早期化できたことで、畜産業界の早期種付け技術の発展に貢献するものと考えられます。さらに、一定水準以上の代用乳を給与すると繁殖の準備よりも成長にエネルギーが分配され、初回AIから妊娠までに必要な日数が増えてしまう可能性が示唆されました。
本研究成果は、2020年1月13日(水)に学術誌「Animal Science Journal」に掲載されました。
(研究成果の概略図)