Research Results 研究成果
免疫系細胞や始原生殖細胞などの高い運動性を示す細胞は、ブレブ(Bleb)と呼ばれる細胞膜の突起構造を形成して、細胞外マトリックスと呼ばれるタンパク質の網目の中をくぐり抜けながら、体内を移動することが知られています。しかしながら、これらの細胞がどのようにしてブレブを形成するかについては、不明な点が多く残されていました。
今回、九州大学大学院理学研究院の池ノ内順一教授、青木佳南特任助教らの研究グループは、細胞が局所的に細胞質の流動性を上昇させることで、ブレブを形成することを明らかにしました。
ブレブが形成され拡大する際には、細胞質が流入し、その圧力によって細胞膜が押し広げられます。細胞質の圧力を効率良くブレブの拡大に利用するためには、これからブレブを形成する領域において局所的に細胞質の流動性を上昇させる一方で、細胞質の圧力が逃げないようにブレブ以外の領域の細胞質の流動性を上昇させないようにする必要があります。このように細胞質の局所において流動性の不均一さを生み出す仕組みが存在することが、今回の研究で初めて明らかになりました。これは、従来の「細胞質は均質な溶液である」という教科書の記載を書き換える発見です。また、悪性度の高い癌細胞はブレブを形成して体内を浸潤・転移をすることが知られており、今回の発見は癌の浸潤・転移の新たな予防法や治療法を開発する上で基礎となる知見です。
本研究成果は、2021 年 1 月 20 日(水)午後 7 時(日本時間)に英国科学雑誌『Nature Communications』に掲載されました。
本研究は、文部科学省 日本学術振興会 科学研究費、日本医療研究開発機構 革新的先端研究開発支援事業「AMED-PRIME」(画期的医薬品等の創出をめざす脂質の生理活性と機能の解明)等の支援を受けて行われました。
細胞内に導入した粒子の動きからブレブの拡大期に細胞質の流動性が上昇することを見出しました。
拡大期のブレブ(黒矢印)と退縮期のブレブ(白矢印)では、細胞質の流動性が変化するだけでなく、細胞質中のタンパク質の組成が異なることを見出しました。