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超高速スピン変換により有機発光分子の励起一重項・三重項状態間の熱平衡を実現

 
〜有機ELデバイスの高輝度・高効率化に成功〜

公開日:2021.02.15

 

研究成果 Physics & Chemistry Technology

 九州大学稲盛フロンティア研究センターの安田琢麿教授、相澤直矢特任助教(研究当時、現 理化学研究所研究員)らの研究グループは、新たに開発した有機発光材料において、スピン反転を伴う励起一重項状態と励起三重項状態間の可逆的かつ高速な項間交差*1により、両励起状態間の熱平衡*2が近似的に成立することを見出しました。

 熱平衡は熱力学の基本概念であり、いかに複雑な分子系であっても熱平衡状態にあれば、その振る舞いを熱力学の法則から予測することが可能です。例えば、次世代の有機EL材料として期待されている熱活性化遅延蛍光(TADF)材料*3において、励起一重項状態と励起三重項状態間の熱平衡を仮定すれば、その発光寿命を単純な数理モデルで表すことができます。しかし、励起一重項状態から基底状態への放射失活により比較的短い時間しか存在しない有機発光材料の励起状態において、このような異なるスピン多重度間での理想的な熱平衡状態を実現するのは困難でした。

 本研究で開発したTADF材料は、108 s–1(1秒間に1億回)以上の世界最速かつ可逆的な項間交差が可能であり、励起一重項状態と励起三重項励起状態間の熱平衡モデルに従って発光することを明らかにしました。常温における発光寿命は、TADF材料として極めて短い750 nsに到達し、熱平衡モデルの予測値と良い一致を示しました。この短い発光寿命に由来して、本材料を用いた有機ELデバイスは、10,000 cd m−2以上の高輝度においても20%以上の高い外部EL量子効率を達成しました。TADF材料の本質的課題であった高輝度時の効率低下を抑制することに成功しました。

 本研究成果は、2021年2月12日(米国東部時間)に、米国科学振興協会(AAAS)が出版する「Science Advances」にオンライン掲載されました。本研究は、主に日本学術振興会科学研究費補助金(JP18H02048)と科学技術振興機構さきがけ(JPMJPR17N1)の支援を受けて行われました。

(参考図)本研究で開発した発光材料と励起状態間の熱平衡モデル(S1: 最低励起一重項, T1: 最低励起三重項, S0: 基底状態, kISC: 項間交差速度定数, kRISC: 逆項間交差速度定数, kr: 放射速度定数, kDF: TADF速度定数, ΔEST: S1とT1のエネルギー差, kB: ボルツマン定数, T: 温度)

研究者からひとこと

有機ELデバイスの高輝度・高効率化のためには、高速に励起三重項状態を励起一重項状態に変換して発光させることが必要です。
我々は、高速スピン変換可能な有機発光材料を探索する過程で、両励起状態間の熱平衡という興味深い現象を見出しました。今後、同様の挙動を示す分子群が発光材料開発の中心となることを期待しています。

研究に関するお問い合わせ先

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