Research Results 研究成果
九州大学大学院医学研究院呼吸器内科学分野の松元幸一郎准教授、九州大学病院の神尾敬子医員、山本宜男医員らの研究グループは、線香の煙を吸入すると気道が収縮しやすくなり、気道を覆う上皮のバリア機能が低下することで、喘息を悪化させる可能性があることを明らかにしました。
線香はアジアや中東の多くの国で、宗教的行事や香りを楽しむものとして慣習的に使用されています。線香を燃やすと多くの有害物質が発生し、タバコの燃焼時よりも高濃度のPM2.5が室内に長時間浮遊することが知られています。また最近の臨床研究で、線香を日常的に使用する家庭の子供は、使用しない家庭と比べて喘息のリスクが高く、肺機能も低下しやすくなることが報告されています。しかし、線香煙の吸入が、肺や気道の機能にどのように影響するのかは不明でした。
本研究では、マウスに線香煙を吸入させると、気道過敏性が亢進(気道が収縮し喘息をおこしやすくなる)し、肺のタイトジャンクション蛋白の発現が低下することを明らかにしました。さらに、線香煙は気道を覆う上皮細胞のバリア機能を低下させました。タイトジャンクション蛋白は、細胞同士を密に結合させ気道上皮のバリア機能を保っており、炎症の原因となる吸入抗原が体内へ侵入することを防いでいます。これらの線香煙によるマウスの肺や気道への有害な作用は、線香煙吸入後に発生する酸化ストレスによるものであり、抗酸化剤を使用することで症状を改善することができます。この成果は2021年3月31日付で「Scientific Reports」に掲載されました。
(参考図)
左:燃焼させる線香の量が多いほど、線香煙に曝露されたマウスの気道過敏性を亢進させました。
右:線香煙曝露はマウス肺のタイトジャンクション蛋白(Claudin-2とZO-1)の発現を低下させました。