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九州地方において中国からの越境大気汚染の減少を示唆!渓流水質にも反映

公開日:2021.06.27

 

研究成果 Environment & Sustainability

 九州大学大学院農学研究院(演習林)の智和正明准教授は、九州大学演習林(福岡・宮崎・北海道)で得られている長期的な観測データ(大気沈着、渓流水質)から2010年代における窒素沈着量や渓流水質の経年変化を解析し、九州地方において、中国からの越境大気汚染が2010年代にかけて減少している可能性を明らかにしました。これまで1990年代から2000年代に東アジア大陸、特に中国からの越境大気汚染が数多く報告されてきました。しかし、2010年代に入ると中国の窒素沈着量は減少していることが報告されています。このため、越境大気汚染の影響を受けている日本でもそれが反映されている可能性があります。
 解析の結果、福岡演習林(篠栗町・久山町)宮崎演習林(椎葉村)で、2010年代に大気汚染物質である大気由来の窒素の沈着量が有意に減少し、この10年でほぼ半減しました(参考図)。一方で中国から遠く離れている北海道演習林(北海道足寄町)では、もともと値が高くなく2010年代も大きな変動は見られませんでした(参考図)。これらの結果から九州地方において、国内の窒素汚染物質の排出量の減少に加えて、中国からの越境大気汚染の減少が寄与している可能性が示唆されました。
 さらに福岡演習林・宮崎演習林で調査した4流域の渓流水のうち3流域で窒素濃度が有意に低下傾向を示しており、大気窒素沈着量の減少を反映しているものと考えられました。一方窒素濃度が有意に上昇する傾向を示す渓流水の流域では、2009年からシカの個体数が急激に増加し、2010年代にシカによる食害でササが消滅しつつあることが報告されています。これらの結果から、窒素沈着のほかにも近年問題となっている環境問題(シカ個体数の増加など)が渓流水質に影響を与えており、森林生態系の物質循環がシカによって撹乱を受けている可能性が示唆されました。
 本研究で明らかにした窒素沈着量の減少は越境大気汚染の影響が大きいとされる西日本地方で初めての報告になります。本研究成果は、2021年6月23日に国際学術誌「Environmental Pollution」のオンライン速報版で公開されました。

(参考図)福岡(篠栗)・宮崎(椎葉)における窒素沈着量の減少

研究者からひとこと
本研究は九州大学の異なる地域にある3つの演習林の特徴を活かした研究で、技術職員をはじめとする教職員の地道な調査の積み重ねで明らかになりました。今後もこのような長期観測を継続し、環境変動を明らかにしたいと考えています。

論文情報

タイトル:
Long-term changes in atmospheric nitrogen deposition and stream water nitrate leaching from forested watersheds in western Japan
(西日本の森林流域における大気由来の窒素沈着量と河川からの窒素流出の長期変動)
著者名:
Masaaki Chiwa 
掲載誌:
Environmental Pollution 
DOI:
https://doi.org/10.1016/j.envpol.2021.117634