Research Results 研究成果

27種類の悪性腫瘍を同時に診断・鑑別可能なDNAメチル化パネルの作成に成功

2021.11.08
研究成果Life & Health

ポイント

  • DNA上のシトシンのうちの約450,000ヶ所のメチル化状態を網羅的に統計解析することにより、27種類の悪性腫瘍それぞれで特徴的にメチル化されているシトシンを抽出し、27種類の悪性腫瘍を同時に診断・鑑別可能なメチル化パネルの作成に成功しました。
  • 作成したメチル化パネルは、人種・組織検体の保存法・DNAメチル化の検出手法によらず適応可能です。また、転移巣を用いた解析からも原発臓器が診断可能で、腫瘍内不均一性の影響も受けにくいことが示されました。
  • 採血によって得ることができる、circulating tumor DNA(ctDNA)のメチル化情報からも腫瘍の存在する臓器の診断ができる可能性が示されました。
  • 原発不明癌の組織を検査することで、原発不明癌の原発臓器を客観的データから正確に推定できる可能性が示されました。

 国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学大学院医学系研究科消化器外科学の清水大(しみずだい)助教・小寺泰弘教授、東京大学アイソトープ総合センターの谷上賢瑞(たにうえけんずい)特任准教授・秋光信佳(あきみつのぶよし)教授、名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学の松井佑介(まついゆうすけ)准教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻の波江野洋(はえのひろし)特任准教授、九州大学病院別府病院外科の三森功士(みもりこおし)教授らのグループは、DNA上のシトシンのうちの約450,000ヶ所のメチル化状態を網羅的に解析することにより、27種類の悪性腫瘍を同時に診断・鑑別可能なメチル化パネル [CACO (CAncer Cell-of-Origin) methylation panel] の作成に成功しました。
 DNAメチル化(※1)は臓器特異性や腫瘍特異性を示すとされています。今回の研究では、大規模公共データを用いて27種類の臓器由来悪性腫瘍に特徴的なDNAメチル化部位を統計的に抽出し、診断パネル(※2)を作成しました。作成したメチル化パネルの診断能は、自施設で入手した検体や別の公共データを用いることで検証しました。その結果、人種・組織検体の保存法・DNAメチル化の検出手法によらず、さらに腫瘍内不均一性(※3)の影響を受けずに、悪性腫瘍の存在部位診断に用いることができることが示されました。また、血液中のcirculating tumor DNA(ctDNA)(※4)のメチル化状態からも、どの臓器由来の悪性腫瘍が存在するかを診断できる可能性が示されました。さらに、原発不明癌症例の血液検体からも原発臓器を同定できる可能性が示されました。
 本研究の結果から、採血や尿検査などのリキッドバイオプシーを用いて、悪性腫瘍の存在部位を的確に識別可能な検診技術への発展が期待されます。また、原発不明癌の正確な原発巣診断に活用できる可能性があり、原発不明癌に対してより正確な治療を提供できる可能性が示唆されました。
 本研究成果は、国際科学誌「Cancer Gene Therapy」(英国時間2021年11月8日付けの電子版)に掲載されました。

メチル化診断パネルの作成

A:28種類の悪性腫瘍、正常組織、健常者全血のメチル化データを網羅的に統計解析し、27種類の悪性腫    
   瘍を診断・鑑別しうるメチル化パネルを作成。
B:作成したメチル化パネルを用いた28種類の悪性腫瘍症例のクラスタリング(t-SNE解析)。
C:作成したメチル化パネルの診断能。

用語解説

(※1) DNAメチル化:DNAを構成するアデニン・グアニン・シトシン・チミンの一つにメチル基を付加する反応で、その多くはシトシン残基で生じます。DNA上の遺伝子の特定領域がメチル化されることにより、当該領域の遺伝子発現が変化し、細胞の機能に変化をもたらします。

(※2) パネル(パネル検査):検査技術の進歩により、同時に多くの遺伝子情報を検査できるようになりました。正確に疾患の特徴をとらえて、精度の高い診断をするために、遺伝子情報など多数の検査項目を一度の検査で同時に調べることをパネル検査と言います。

(※3) 腫瘍内不均一性:悪性腫瘍は遺伝子変異などが蓄積して発生しますが、1つの腫瘍の中に遺伝子変異の異なる細胞が混在していることを腫瘍内不均一性と言います。

(※4) ctDNA:腫瘍細胞から放出されたり、腫瘍細胞が崩壊することで、腫瘍由来のDNAが血液をはじめとする体液中に漏れ出たものをctDNAと言います。

論文情報

タイトル:
著者名:
Dai Shimizu, Kenzui Taniue, Yusuke Matsui, Hiroshi Haeno, Hiromitsu Araki, Fumihito Miura, Mitsuko Fukunaga, Kenji Shiraishi, Yuji Miyamoto, Seiichi Tsukamoto, Aya Komine, Yuta Kobayashi, Akihiro Kitagawa, Yukihiro Yoshikawa, Kuniaki Sato, Tomoko Saito, Shuhei Ito, Takaaki Masuda, Atsushi Niida, Makoto Suzuki, Hideo Baba, Takashi Ito, Nobuyoshi Akimitsu, Yasuhiro Kodera, Koshi Mimori
掲載誌:
Cancer Gene Therapy 
DOI:
10.1038/s41417-021-00401-w

研究に関するお問い合わせ先

九州大学病院別府病院 三森 功士 教授