Research Results 研究成果

味とにおいに寄与する成分を同時に検出可能な新たな分析法を開発

~食品の風味(おいしさ)の数値化・客観的理解に期待~ 2022.01.25
研究成果Physics & Chemistry

ポイント

  1. ヒトが口腔内で検知しているような味やにおいを同時に解析する技術は存在せず、味とにおいを一元化した食品の風味(おいしさ)を定量的に評価することはこれまで不可能だった
  2. 本研究で味とにおいに寄与する成分を同時に検出可能な新たな分析法を開発
  3. 従来数値として表現することが困難であった食品風味・品質の評価、さらにはおいしさの客観的評価・理解に大いに役立つと期待

 ヒトは喫食時に、食品から口腔内に放出される味とにおいに寄与する成分を味覚・嗅覚(化学感覚)情報として一斉検知することで、風味を認知し、おいしさを評価しています。しかしながら、ヒトが口腔内で検知しているような味やにおいを同時に解析する技術は存在せず、味とにおいを一元化した食品の風味(おいしさ)を定量的に評価することは不可能でした。従来の食品風味成分分析では、味成分は液体クロマトグラフィー(LC)、におい成分はガスクロマトグラフィー(GC)というように、分析対象とする成分の化学的特性に合わせて分析法を選択する必要がありました。さらには、分析を行う前段階として成分抽出など、煩雑な前処理を必要とするため、ヒトの知覚している味とにおいに寄与する風味成分を食品そのままの状態で評価することは不可能でした。
 今回、九州大学大学院農学研究院食品分析学分野の田中 充准教授らの研究グループは、揮発/不揮発性化合物に対する吸着能を有するグラファイトカーボンブラックナノ粒子(GCB)に着目しました。そして、GCBをレーザー脱離イオン化質量分析(LDI-MS)(※1)のイオン化支援剤として利用することで、味成分(アミノ酸、核酸、糖など)とにおい成分(エステル、アルコール、アルデヒドなど)の同時検出に成功しました。本研究で開発した新たな分析法であるGCB-LDI-MS法は、煩雑な前処理の必要が無く、食品をそのまま分析することが可能です。そのため、食品や農作物の風味・品質の評価に広く活用できる新規の迅速かつ簡便な分析法として期待されます。
 本成果により、食品本来の味とにおいに寄与する風味成分情報を一元化したデジタル情報へ変換することが可能になり、従来数値として表現することが困難であった食品風味・品質の評価、さらにはおいしさの客観的評価・理解に大いに役立つと期待されます。
 本研究成果は、2022年1月25日(火)10時(日本時間)に米国科学誌「ACS Applied Nano Materials」に掲載されました。なお、本研究は学術変革領域研究(A)「深奥質感」(JP21H05828)および日本学術振興会科学研究費(JP21K19089)等の支援を受けました。

呈味成分と香気成分をそれぞれに適した分析法で評価していた従来法に対して、本研究で開発したGCB-LDI-MS法は、食品をそのまま分析することで味とにおいに寄与する風味成分を一斉検出可能

用語解説

(※1)レーザー脱離イオン化質量分析
レーザー照射によるエネルギーを利用し、分析対象物質を昇華・イオン化させ、その分子の質量数(質量電荷比)により分離・検出する分析法。

研究者からひとこと
食品風味の分析法としては、検出可能な化合物の網羅性や検出感度、さらにはセンサー化など、まだまだ課題はあります。ヒトが味覚・嗅覚で実際に検知している化学成分情報を完全に数値化できる次世代の食品分析法の構築を目指し、「おいしさの客観評価・理解」をはじめ、高度な分析技術が拓く新たな食科学の発展に貢献できればと思います。

論文情報

タイトル: Laser Desorption Ionization-Mass Spectrometry with Graphite Carbon Black Nanoparticles for Simultaneous Detection of Taste- and Odor-Active Compounds 
著者名: Mitsuru Tanaka, Keishiro Arima, Tomotaka Takeshita, Yuri Kunitake, Naoto Ohno, Miho Imamura, Toshiro Matsui
掲載誌: ACS Applied Nano Materials
DOI: 10.1021/acsanm.1c03890   

研究に関するお問い合わせ先

農学研究院 田中 充 准教授