Research Results 研究成果
九州大学大学院医学研究院の吉良潤一教授、山﨑亮准教授らの研究グループは、気管支喘息モデルマウスにおいて、アレルギー炎症が中枢神経グリア細胞を活性化し、神経因性疼痛を引き起こしていることを明らかにしました。
アレルギー性疾患は近年世界的に増加傾向で、大きな社会問題です。アレルギー性疾患に関連した神経障害は報告されていますが、脳脊髄等の中枢神経系に全身臓器のアレルギーが直接的に影響を及ぼすか否かは明らかではありません。本研究グループが発見したアレルギー性疾患に伴う脊髄炎は、アトピー性脊髄炎と命名し1997年に報告していますが、今では国の指定難病となっています。この病気では耐え難い痛み(神経因性疼痛)が持続するのが大きな特徴です。今回、研究グループは、気管支喘息モデルマウスにおいて、重症の神経因性疼痛を発症していることを発見しました。これらのマウス脊髄では、神経細胞だけでなく、その周囲のグリア細胞(神経細胞以外の細胞)や脊髄実質の血管内皮細胞が活性化していました。活性化グリア細胞は、血管内皮活性化因子エンドセリン-1(ET-1)の受容体EDNRBを発現しており、選択的EDNRB受容体拮抗薬BQ788をこのマウスに投与することで、神経因性疼痛は改善し、脊髄グリア細胞や神経細胞の活性化も抑えられました。これらの結果は、末梢のアレルギー炎症が、ET-1/EDNRB経路を介して中枢神経グリア細胞を活性化し、神経因性疼痛を引き起こしていることを証明しました(図)。本成果により、今後、アトピー性脊髄炎や神経因性疼痛の治療開発が進む事が期待されます。
本研究成果は、2016年11月23日付けで「The Journal of Neuroscience」に掲載されました。
全身性アレルギー炎症による神経因性疼痛(アロディニア)誘発機序。
手足のジンジン、ビリビリする痛みに悩む方は、現代社会では激増しています。なかでも神経障害によって起こる神経因性疼痛の患者さんは、我が国で600万人以上ともいわれています。私たちが発見したアトピー性脊髄炎で、なぜ痛みが起こるかの一端を明らかにできて、本当によかったと思います。原因不明の痛みに悩む方の中では、この病気が見逃されていることも少なくないと思います。そのような方が適切な診断と治療を受けられることを願っています。