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公開日:2022.07.11
研究成果 Environment & Sustainability
ポイント
概要
クリタマバチ(図1)の虫こぶ(図2)がクリの芽にできると、その芽から枝は伸びず花も咲かないので、果実ができません。本種は中国起源と考えられ、日本では1940年代に、アメリカ合衆国では1970年代に、ヨーロッパでは今世紀に、それぞれ侵入が確認されました。本種はクリが栽培されている世界各地でクリの重要害虫になっています。雌成虫の卵成熟様式は繁殖能力を決める重要な性質ですが、クリタマバチでは斉一成熟説と随意的逐次成熟説が提唱され、その検証が望まれていました。
九州大学大学院比較社会文化研究院の阿部芳久教授と地球社会統合科学府の博士課程3年の鄔亜嬌(ウーアキョウ)大学院生は、クリタマバチの卵成熟様式が斉一成熟性であることを実験的に解明しました。虫こぶから脱出してきた雌成虫は生涯に産卵可能な平均232個の成熟卵を保有しており、産卵をさせない状態で日齢が進んでも成熟卵数は変化しませんでした(図3)。斉一成熟性は本種の分布拡大要因の一つであると考えられます。今もクリタマバチが分布を拡大中のヨーロッパやその近隣において、本種の分布拡大の予測や防除対策の立案をする際の基礎的知見として、本成果は役立つと期待されます。
本研究成果は国際科学誌「European Journal of Entomology」に2022年7月8日(金)に掲載されました。
図1 クリタマバチの成虫
図2 クリタマバチの虫こぶ
図3 クリタマバチの成熟卵数は餌の有無にかかわらず日齢の影響を受けません(Wu and Abe (2022)のFig. 1を改変)
用語解説
(※1) 斉一成熟説
クリタマバチ雌成虫が虫こぶから脱出したときには生涯に産む卵を成熟させており、産卵させない状態で日齢が進んでも卵吸収はおこなわず、成熟卵数は変化しません。
(※2) 随意的逐次成熟説
クリタマバチ雌成虫は、産卵させない状態で日齢が進むと卵吸収をおこない、成熟卵数は減少します。
タイトル: | Egg maturation in an invasive gall wasp, Dryocosmus kuriphilus (Hymenoptera: Cynipidae): An experimental test of the pro-ovigenic and facultatively synovigenic hypotheses |
著者名: | Yajiao Wu and Yoshihisa Abe |
掲載誌: | European Journal of Entomology |
DOI: | 10.14411/eje.2022.024 |
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