Research Results 研究成果

大型レーザー装置で実験室に宇宙プラズマ衝撃波を生成

-宇宙線の生成メカニズム解明に向け新たな研究手段を確立- 2022.08.30
研究成果Physics & ChemistryTechnology

ポイント

  • 高エネルギーの宇宙線や大振幅波動の生成源として期待されている宇宙プラズマ衝撃波の物理には未解明な点が多い。
  • 従来、人工衛星による観測が唯一の実証研究の手段であったが、大型レーザーを用いた「レーザー宇宙物理学実験」で実験室にこれを生成。
  • 条件を能動的に制御でき、再現性も担保される実験が新たな研究ツールに加わることで、当該研究が大きく進展する可能性がある。

概要

 宇宙空間を満たしているプラズマ※1はさまざまな星や天体現象によって生成される超音速の流体です。宇宙プラズマ衝撃波は天体現象の膨大なエネルギーを変換するエネルギー変換器の役割を担うと考えられています。しかし、エネルギー変換のメカニズムは複雑で未解明です。
 九州大学 松清修一准教授・森田太智助教・諌山翔伍助教、青山学院大学 山崎了教授・田中周太助教、富山大学 竹崎太智助教、北海道大学 富田健太郎准教授、大阪大学 坂和洋一准教授、蔵満康浩教授、佐野孝好助教らの研究グループは、衝撃波を実験室に生成し、その構造解明に取り組みました。実験は世界有数の出力を誇る大阪大学レーザー科学研究所の激光XII号レーザーを用いて行われ、本研究成果は米国の雑誌Physical Review Eに2022年8月26日(金)に掲載されました。
 これまで、人工衛星による観測が宇宙プラズマ衝撃波の唯一の直接的な実証研究手段でしたが、実験では条件を能動的に制御でき、再現性も担保されます。これらは衛星観測にはない利点で、新たな研究ツールとして実験が加わることで、この分野の研究が大きく進展する可能性があります。
 宇宙線と呼ばれる極めてエネルギーの高い荷電粒子は、宇宙プラズマ衝撃波で作られると考えられています。宇宙線は、人工衛星の故障や宇宙飛行士の被ばくの原因になることが知られているだけでなく、惑星の長期的な気候変動や生命進化にも影響を与える可能性が指摘されています。宇宙線が発見されたのはいまから1世紀以上も前ですが、これがどのようなメカニズムで作られるのかを矛盾なく説明する理論は未だに確立されていません。宇宙プラズマ衝撃波のエネルギー変換過程の理解が進めば、宇宙線生成の謎の解明に向けて大きく前進すると期待されます。

(左図)太陽面爆発に伴って宇宙空間を伝搬する衝撃波 (ESA/NASA提供)  (中央図)実験概略図 アルミ板ターゲットにレーザーを照射してアルミプラズマの爆風を生成。これが一様に磁場のかかった周囲の窒素プラズマを圧縮して衝撃波が生成される。  (右図)激光XII号レーザー レーザー照射時の実験チャンバー。アルミとレーザーの相互作用で生じた放射光をとらえている。この放射光が周囲の窒素ガスを瞬時にプラズマ化する。

用語解説

(※1) プラズマ
物質を加熱することで得られる固体・液体・気体に次ぐ第4の物質状態。宇宙に存在する観測可能な物質の99%以上はプラズマと考えられている。また、レーザーを物質に照射することでもプラズマ状態が生成される。

論文情報

掲載誌:Physical Review E
タイトル:High-power laser experiment on developing supercritical shock propagating in homogeneously magnetized plasma of ambient gas origin
著者名:S. Matsukiyo, R. Yamazaki, T. Morita, K. Tomita, Y. Kuramitsu, T. Sano, S. J. Tanaka, T. Takezaki, S. Isayama, T. Higuchi, H. Murakami, Y. Horie, N. Katsuki, R. Hatsuyama, M. Edamoto, H. Nishioka, M. Takagi, T. Kojima, S. Tomita, N. Ishizaka, S. Kakuchi, S. Sei, K. Sugiyama, K. Aihara, S. Kambayashi, M. Ota, S. Egashira, T. Izumi, T. Minami, Y. Nakagawa, K. Sakai, M. Iwamoto, N. Ozaki, Y. Sakawa
DOI:10.1103/PhysRevE.106.025205

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