Research Results 研究成果

⿇疹(はしか)ウイルスが「協力」して脳炎を引き起こす仕組みを解明

新規治療薬の開発やウイルス共通の進化メカニズム解明に期待 2023.01.30
研究成果Life & Health

ポイント

  • ⿇疹(はしか)ウイルスはまれに致死性の脳炎を引き起こすが、その発症メカニズムの解明が課題。
  • ⿇疹ウイルスの神経増殖能は膜融合タンパク質同⼠の相互作⽤(協⼒・⼲渉)が決める。
  • 治療薬の開発や、様々なウイルスに共通する進化メカニズムの解明に期待。

概要

 ⿇疹ウイルスは発熱と全⾝性の発疹を特徴とする⿇疹(はしか)の原因ウイルスです。まれに脳に感染し、数年後に致死性の脳炎(亜急性硬化性全脳炎、Subacute sclerosing panencephalitis、SSPE)を引き起こしますが、本来、⿇疹ウイルスは脳で増殖する能⼒を持ちません。したがって、⿇疹ウイルスがどのように脳炎を発症させるのかは不明であり、そのメカニズムの解明が望まれていました。
 今回、⿇疹ウイルスが神経での増殖能を獲得して脳炎を引き起こす、新たな進化の仕組みが解明されました。
 九州⼤学⼤学院医学研究院ウイルス学分野の⽩銀勇太助教、同⼤医学部6年⽣の原⽥英鷹らの研究グループは、⻑崎⼤学⾼度感染症研究センターの柳雄介教授、京都⼤学医⽣物学研究所の橋⼝隆⽣教授、鈴⽊⼲城助教らと共同で、脳炎に由来する⿇疹ウイルスの膜融合(F)遺伝⼦の解析を⾏いました。その結果、変異F タンパク質と正常F タンパク質の相互作⽤(協⼒または⼲渉)がウイルスの神経増殖能を決める重要なファクターであることをつきとめ、新たなウイルス進化メカニズムを明らかにしました。
 今回の発⾒はF タンパク質の相互作⽤を標的としたSSPE 治療薬の開発や、細胞への侵⼊に膜融合タンパク質を⽤いるウイルス(新型コロナウイルス、ヘルペスウイルスなど)に共通する進化メカニズムの解明に役⽴つことが期待されます。
 本研究成果は⽶国のオンライン科学雑誌「Science Advances」に2023年1⽉28⽇(⼟)に掲載されました。

変異Fタンパク質が、正常Fタンパク質による干渉を克服して細胞融合を起こす2つの方法とは?

用語解説

(※1) 適者⽣存(survival of the fittest)
⽣物進化論における⾃然選択のメカニズムを説明する⽤語。ここではウイルスのゲノムのうち最も増殖に有利な変異を持つゲノムが最終的に⽣き残るという考え⽅。
(※2) 集団伝播(en bloc transmission)
ウイルスの伝播において、複数のゲノムをまとめて同⼀細胞内に侵⼊させ、感染を開始させる様式のこと。近年の研究により、様々なウイルスが集団伝播を促進するメカニズムを持ち、しばしばその感染⼒が増強されることが⽰されている。

論文情報

掲載誌:Science Advances
タイトル:Collective Fusion Activity Determines Neurotropism of an en Bloc Transmitted Enveloped Virus
著者名:Yuta Shirogane, Hidetaka Harada, Yuichi Hirai, Ryuichi Takemoto, Tateki Suzuki,Takao Hashiguchi, Yusuke Yanagi
DOI:10.1126/sciadv.adf3731

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