Research Results 研究成果

国産スギ材の⾹りで視覚的変化への「気づき」の反応を⾼める!

〜⽊材から揮発する⾹りの脳科学的機能性解明の進展に期待〜 2023.03.30
研究成果Humanities & Social SciencesLife & HealthEnvironment & Sustainability

ポイント

  • 居住環境が持つ⼈の⼼⾝への影響と機能性が近年注⽬されはじめている
  • スギ材の⾹りが「気づき」の脳機能を⾼めることを世界で初めて発⾒
  • 今後、実⽣活や社会での利活⽤と⽊材の⾹りによる脳科学的機能性の解明の進展に期待

概要

 九州⼤学⼤学院農学研究院の中島⼤輔特任助教、清⽔邦義准教授らの研究チームと協同組合 ⽊の家の健康を研究する会(代表理事 安成信次/㈱安成⼯務店 代表)による共同研究グループは、スギ材の⾹り成分が、⼈の脳が視覚的な変化を検出する際の脳機能を⾼めることを、脳波による神経⽣理学的実験によって明らかにしました。
 近年、スギ材から揮発する⾹り成分が⼈にリラックス効果を与えることは複数の報告でわかってきていました。しかし知覚レベルで脳にどのような変化が起こっているかは未解明でした。
 本研究では、天然スギ材を内装材に⽤いた部屋と、⽊材と⾒た⽬を似せた⽊⽬調樹脂系建材を内装材とした部屋を⽤意し、その中で被験者に数種類の単純な刺激画像を連続的に⾒せながら脳波を測定しました。刺激画像に対する事象関連電位(※1)を解析した結果、画像の⾓度をわずかに変化させてまれに出現させた視覚刺激への被験者の脳内視覚野ニューロンによる変化への⾃動的な検出反応は、スギ内装材の部屋に滞在しているときの⽅が⼤きいことが分かりました。また、スギ内装材室の揮発性成分(⾹り成分)を調べた結果、セスキテルペン類(※2)の濃度が⾼いことがわかりました。このことから、スギ内装材から揮発する⾹り成分であるセスキテルペン類は、⾒た⽬のわずかな違いに対する「気づき」によって起こる脳の⾃動的な反応を⾼めることがわかりました。
 今回の発⾒により、⽊材の⾹りが知覚レベルで脳機能を変化させる⼀端が明らかになり、⽊材から揮発する⾹りの脳科学的機能性解明の進展が期待されます。また、実⽣活のさまざまな居住環境、作業環境、各種⽀援・教育・トレーニング環境などにおける建築材料への脳科学的機能性付加と⾼付加価値化につながることが期待されます。
 本研究結果は、2023年3⽉30日12時30分(⽇本時間)にJournal of Wood Science 誌に掲載されました。

実験室内装と香り成分分析の結果(スギ内装材室ではセスキテルペン濃度が高かった。)

視覚的変化に対する頭皮上脳波マップ (マップ上の青い場所で、陰性電位が強い。傾き5度の視覚的変化に対する270-300 ms後の脳内ニューロンの自動的検出反応(視覚野陰性電位の振幅)は、スギ内装材室で大きかった。)

用語解説

(※1) 事象関連電位
見る、聞く、判断するなど、人にとっての知覚的・認知的なイベントが起きた瞬間を0 msecとして、そのイベント後の脳波の電位変化をミリ秒オーダーで解析することで、知覚機能および認知機能の脳内メカニズムの変化を解読する手法。
(※2) セスキテルペン類
3つのイソプレン単位から構成されているC15の基本骨格を持つテルペン類の総称。乾燥スギ材の主要揮発成分として、δ-Cadinene、α-Muurolene及びcis-Calameneneなどのセスキテルペン類が報告されている。

研究者からひとこと

脳を直接測ることで、木材や香りが持つ人への新たな脳への機能性がみつかっていくことに期待しています(中島特任助教)
今回、無垢スギ材のよさの一端が、脳科学と分析化学の異分野融合研究により解明されました。脱炭素社会に寄与する木材活用の新たな展開に期待しています。(清水准教授)

論文情報

掲載誌:Journal of Wood Science
タイトル:Effects of volatile sesquiterpenes from Japanese cedarwood on visual processing in the human brain: an event-related potential study
著者名:Taisuke Nakashima, Minkai Sun, Akiyoshi Honden, Yuri Yoshimura, Toshinori Nakagawa, Hiroya Ishikawa, Jun Nagano, Yuki Yamada, Tsuyoshi Okamoto, Yuichiro Watanabe, Shinji Yasunari, Koichiro Ohnuki, Noboru Fujimoto, Kuniyoshi Shimizu
DOI:10.1186/s10086-023-02083-4

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