Research 研究・産学官民連携
芸術工学研究院 コンテンツ・クリエーティブデザイン部門
教授 竹之内 和樹
要素設計や設計手法を研究対象とする中で、ときどき、意外な挙動で人を面白がらせたり不思議がらせたりする「おもちゃ」のアイデアを思いつくことがあります。そしてその「おもちゃ」を、デジタルモデリング、シミュレーション、最適化を駆使してまじめに設計し、デジタルファブリケーションを利用して制作しています。よく聞かれるようになったSTEAM、ただし、工学設計を基盤にしていてTとEを大文字にした"sTEam"の作品です。
下に紹介しているのはOJIGI TOKURIです。伝統的な日本の酒器は磁器や陶器でできているので、中が見えず、どれほど入っているかがわかりません。そこで、残りの量に応じて段階的に傾きが変わり、空になると倒れてしまう徳利を機能デザインしました。3Dプリントをして、計画した通りの挙動が得られることを確認しています。
容器内部の形状を非対象にして、残りの量によって重心の位置が上下だけでなく左右に移動すればよいと気軽に設計を始めたのですが、内容量に応じた特定の傾き角で安定し、かつ、その前後の角度では復元力が生じるようにするには、外形、内部仕切りの形状の両方を最適化する必要があり、通常の設計と変わらない手間がかかりました。玩具めいた対象をデザインするのは簡単に思われるかもしれませんが、通常の設計にクリエーティブな要素が加わり、存外に工夫と労力とを要するものです。
外観は、このような挙動を与える形状をすっぽりと包み隠す選択もありましたが、内部を非対称にする仕切り部には透かし彫りを、反対側のつり合い錘部には肉抜きを施して、仕組みを見せる・魅せるデザインとしてみました。
なお、このような対象を設計するときには、プログラミングの類は使用せず、敢て、スプレッドシートをはじめとした汎用の計算ツールを利用することにしています。設計者CAEに対して、デザイナーCAEと呼んでいます。
もうひとつ紹介するのは、羽ばたき機械です。芸術工学図書館の貴重図書のひとつ、レオナルド・ダ・ビンチの手稿のレプリカから、からくりのアイデアが豊富なアトランティコ手稿を選び、スケッチのひとつをもとに機構設計をしました。実は、もとのスケッチは自由度が不足していて動かない筈なのですが、巷の書籍には、これがアニメーション化されて動いているものがあります。それを指摘しての修正設計です。不足する自由度を手稿のスケッチには見当たらなかった球面軸受で現代的に補い、その他にも小さい修正を施し工夫を追加しています。また、レオナルド・ダ・ビンチがスケッチを描いた頃に興味を持っていたであろう白鳥をもとに外観を検討しました。
これらは、なんとなく眺めれば「おもちゃ」ですが、当該分野の基礎を持って見る人には、ささやかながらも「知のアーカイブ」になりうると考えています。大人に知的な刺激を提供できるsTEamの作品を増やしていければ、と思っています。