Research Results 研究成果
ポイント
概要
量子コンピューティングをはじめとする量子技術の1つである量子センシングは、量子ビットの量子力学的な性質を利用してセンシングを行う技術であり、従来に比べて高感度・高分解能なセンシングが可能になると期待されています。その中でも、分子中の電子スピンを量子ビットとして用いる手法は、分子の有する高い構造の自由度や均一性から盛んに研究されています。しかし、分子性量子ビットの量子センシングに向けた検討はその多くが極低温下に限定されており、また量子ビットを用いて化学物質のセンシングを行う戦略に関しては例が少なく、対応可能な化学種も限られていました。
今回、九州大学大学院工学研究院の山内朗生大学院生、楊井伸浩准教授(現 東京大学大学院理学系研究科 教授)らの研究グループは、分子科学研究所機器センターの浅田瑞枝主任技術員、中村敏和チームリーダー、名古屋大学大学院工学研究科のPirillo Jenny特任助教、同大学未来社会創造機構脱炭素社会創造センターの土方優特任准教授らと共同して、室温下で様々な分子を識別可能な量子センシング手法の提案を行いました。
本研究では、ゲスト分子種に応じて構造を変化させる特徴を有するMOFと室温下で利用可能な三重項量子ビットを組み合わせることで、導入するゲスト分子の種類に応じて量子ビットの量子重ね合わせ状態の保持時間を変化させる手法を開発しました。今回の成果により、MOFと量子ビットの組み合わせの多様さを活かしたケミカル量子センサーの実現が期待されます。
本研究成果は、2024年9月2日(現地時間) にNature Researchの国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。
研究者らからひとこと
「量子の時代に化学はどのような貢献が出来るのか」という問いが我々の命題です。従来研究されてきた量子ビットとは一線を画す、分子性量子ビットならではの特徴を見出し、生命・医療分野にインパクトをもたらしうる研究を展開していきます。
用語解説
(※1) 量子ビット
0と1で表される古典的なビットの概念をエネルギーの異なる2準位の量子系へと拡張したものであり、その例として電子スピンが該当します。
(※2) 量子センシング
量子ビットの量子力学的な性質を利用してセンシングを行う技術で、量子重ね合わせ状態が外部環境に極めて敏感であることから、従来に比べて高感度・高分解能なセンシングが可能になると期待されています。
論文情報
掲載誌:Nature Communications
タイトル:Modulation of triplet quantum coherence by guest-induced structural changes in a flexible metal-organic framework(柔軟な多孔性金属錯体中のゲスト依存的な構造変化による三重項量子コヒーレンスの変調)
著者名:山内朗生・藤原才也・君塚信夫・浅田瑞枝・藤原基靖・中村敏和・Pirillo Jenny・土方優・楊井伸浩
DOI:10.1038/s41467-024-51715-w
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