Research Results 研究成果

九州大学箱崎サテライト構内のクロマツから新種のテントウムシを発見

~ハダニの生物防除剤資材となりうる日本産ダニヒメテントウ族の分類学的総説を出版~
総合研究博物館
丸山 宗利 准教授
2025.11.12
研究成果Environment & Sustainability

ポイント

  • ダニヒメテントウ族Stethoriniはハダニ類(※1)の天敵として知られ、生物防除剤資材(※2)として利用される。本族は成虫が体長約1~1.5 mmと非常に小型で、体色もほぼ黒一色のため、外見による識別が極めて困難である。確実な識別には雄交尾器など微細な形態の観察が不可欠であるため、日本における本族の種多様性解明は不十分だった。
  • 九州大学総合研究博物館を中心に、国内外の研究機関に所蔵される約1,700個体の標本を詳細に解析し、日本には2属8種のダニヒメテントウ類が生息していることを確認した。日本初記録種が2種、新種が2種確認され、とくに新種マツダニヒメテントウは、マツ類に発生するハダニの重要な天敵である可能性が示唆された。さらに、新種マツダニヒメテントウParastethorus pinicolaは九州大学箱崎サテライトの構内に植栽されたクロマツからも採集され、都市における緑地保全の重要性を示す出来事となった。

概要

ハダニの天敵として知られる日本産のダニヒメテントウ族は、これまで日本に何種生息し、どのように分布しているのかが不明であり、その全容解明が長年の課題となっていました。微小で黒一色の外見をもつため識別が難しく、分類学的研究が停滞していたことが背景にあります。九州大学大学院生物資源環境科学府博士課程2年の関崚大氏と、九州大学総合研究博物館の丸山宗利准教授らの研究グループは、国内外に所蔵されている約1,700個体の標本を詳細に解析し、日本には8種のダニヒメテントウ類が生息することを明らかにしました。そのうち2種は日本初記録種、2種は新種であり、とくにマツダニヒメテントウParastethorus pinicolaはマツ類に発生するハダニを捕食する重要な天敵である可能性が高く、福岡では九州大学箱崎サテライトの敷地内に植栽されたクロマツからも採集されています。今回の発見は、農業害虫防除への応用のみならず、日本の昆虫相や生態系の理解を深める上でも重要な成果です。また、大学構内など都市部の緑地が多様な生物の生息環境として機能していることを示しており、身近な自然を守ることが新たな発見や研究資源の確保につながることを示唆しています。今後は、生態や行動の詳細な研究、DNA解析による種判別精度の向上が期待されます。

本研究成果はチェコ共和国の雑誌「Acta Entomologica Musei Nationalis Pragae」に2025年11月7日(金)に掲載されました。

写真:新種マツダニヒメテントウと本種が見つかった箱崎サテライトのクロマツ

用語解説

(※1) ハダニ類
植物の葉に寄生して汁を吸う体長約0.3~0.5 mmの微小なダニの仲間。吸汁により葉は白い斑点や黄変を生じ、光合成能力が低下して生育が悪化する。高温・乾燥条件で繁殖が盛んになり、野菜や果樹など多くの作物に被害を及ぼす。薬剤抵抗性を容易に獲得することから、ダニヒメテントウやカブリダニ類などの天敵を利用した生物的防除が有効とされている。

(※2) 生物防除剤資材
農業や林業などにおいて、害虫や病害を抑制する防除法として利用される生物や微生物などの天敵。化学農薬とは異なり、環境への影響が少なく、作物や人への安全性が高いことが特徴であり、持続的で環境調和型の害虫管理に貢献している。

論文情報

掲載誌:Acta Entomologica Musei Nationalis Pragae
タイトル:Review of the genera Stethorus and Parastethorus from Japan (Coleoptera: Coccinellidae)【邦訳:日本産ダニヒメテントウ属Stethorusとニセダニヒメテントウ属Parastethorusの総説】
著者名:関 崚大・丸山宗利
DOI:10.37520/aemnp.2025.021