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九州大学と(株)グルーヴノーツが連携 量子コンピュータを半導体産業界へ活用

~量子コンピュータ社会波及効果の拡大、そしてCPS半導体拠点へ~ 2022.06.21
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 国立大学法人九州大学(本部:福岡県福岡市、総長:石橋達朗、以下:九州大学)と株式会社グルーヴノーツ(本社:福岡市中央区、代表取締役社長:最首英裕、以下:グルーヴノーツ)は、量子コンピューティング技術の探求や社会応用発展に向けて、MOUを締結しました。九州大学とグルーヴノーツは、(1)社会課題の解決を目的に、様々に変化する社会の問題を解くための量子コンピュータのモデル開発(定式化)、(2)人材育成と交流として、量子コンピュータに関わる技術者の育成・活躍支援、(3)未来のための技術開発を目指し、従来コンピュータおよび量子コンピュータの中でも「ゲート方式」と「アニーリング方式」を組み合わせた次世代の技術活用方式の開発に取り組みます。

図1 九州大学とグルーヴノーツの連携イメージ

九州大学による半導体拠点化構想

 自動車や家電、再生可能エネルギーや情報端末機器まで、あらゆる製品の製造に欠かすことのできない半導体。近年、世界的な半導体不足により製造業が減産に追い込まれるなどの事態が生じています。さらに半導体は経済安全保障の観点からも重要性を増しており、各国は国家の存亡をかけて半導体の開発競争に乗り出しています。日本でも、「半導体の国内基盤を取り戻す」ことを目標に、先ずは2021年度の補正予算と合わせて約8,000億円が投じられ、さらに今後10年間で官民合わせて10兆円規模の投資の必要性が論じられるなど、政官民が一体となった骨太の方針が示されています。
 九州の半導体生産額は、全国(2兆5,000億円(2021年度))のおよそ4割を占めています。ソニーセミコンダクターマニュファクチャリングや三菱電機パワーデバイス製作所などの大手の半導体デバイスメーカー以外にも、半導体関連サプライチェーンに携わる企業・事業所が数多く存在しており、さらにTSMC新工場の誘致が始まるなど、九州には日本の半導体製造拠点再建に向けた基盤が集約されています。
 TSMC新工場の稼働が開始する2024年度には約1,400名の人材確保が必要とされるなど、今後、九州地区において半導体関連の人材不足が深刻化すると予想されています。九州では、産業界・教育機関・行政機関等45機関が参画し、2022年3月に半導体関連の人材育成と確保を目指す産官学の共同組織「九州半導体人材育成等コンソーシアム」が設立されました。九州大学においても、本コンソーシアムでの活動を通して、社会ニーズに対応した人材育成に取り組んでいます。

図2 九州大学 CPS化推進半導体拠点

 さらに九州大学では、2019年度より内閣府の第二期SIP「戦略的イノベーション創造プログラム」における研究課題「光・量子を活用したSociety 5.0実現化技術」に参画し、研究課題の代表機関である東京大学からCPS(サイバーフィジカルシステム)化ノウハウ(方法論)のPoC(Proof of Concept)を受け、CPSを活用した半導体製造の社会実装を目的とした半導体拠点の構築を行っています。本拠点には、製造プロセスに関わる光・量子プロセス研究開発センター、プラズマナノ界面光工学センター、設計に関わるシステムLSI研究センター、およびデジタル処理能力向上を目指した量子コンピューティングシステム研究センターを備え、AI解析などサイバーシステムを活用しつつ、半導体関連企業との連携を実現しています。以上に示したように、九州大学では人材の育成と確保、および半導体製造の社会実装を実現する拠点構築を行い、九州半導体関連サプライチェーンの強靭化に向けた活動に取り組んでいます。

量子コンピュータの産業応用にてトップクラスの実績を有するグルーヴノーツと連携

 量子コンピュータは、量子力学という物理法則である「量子力学」の原理を応用して計算を行う技術で、従来型のコンピュータを遥かに凌ぐ処理速度の実現に期待が集まっています。九州大学が拠点化を進める半導体産業においても、量子コンピュータを活用することでCPSの処理能力向上や最適化シミュレーションに高い関心が寄せられています。
 量子コンピュータは、計算方法や用途の違いから大きく「ゲート方式」と「アニーリング方式」の2種類に分類されます。すでに実用化しているアニーリング方式は、多くの選択肢の中から最適な答えを求める「組合せ最適化問題」の解決に長けており、問題の数式を専用のモデル(「イジングモデル」)に変換しマシンに投入することで解を得ます。様々な企業でアニーリング方式の量子コンピュータ活用検討が進む一方で、導入に向けた課題の一つに、この定式化・モデル化の難しさがあると言われています。
 グルーヴノーツは、福岡市に本社を置く、世界で初めてアニーリング方式の量子コンピュータの商用サービス化を実現した企業です。量子コンピュータを活用できるクラウドプラットフォーム「MAGELLAN BLOCKS」では、ユーザー企業にとって課題であった定式化・モデル化に対応し、標準機能として提供しています。そのため、ユーザーは必要な情報を入力するだけの手軽さで量子コンピュータ活用が可能になり、生産計画や工程の最適化、ルートや積載の最適化、シフトの最適化に取り組むなど、多くの企業の現場で導入されています。

図3 グルーヴノーツによる量子コンピュータ活用事例の一部

 九州大学は、半導体産業への量子コンピュータ社会波及効果の拡大とCPS半導体拠点の強靭化を進める上で、このたび、量子コンピュータの産業応用にて世界トップクラスの実績と実力を有するグルーヴノーツと連携することを決定しました。今後は両者で、量子コンピューティング技術の探求や社会応用発展に向けて、様々な産業分野への貢献も視野に、目まぐるしい社会状況の変化に応じた現実問題の定式化や、九州の地域活性化として産学双方向の人材交流などの取り組みを推進してまいります。

【連携内容】
■高度化する社会課題への対応
基礎研究の九州大学と社会実装のグルーヴノーツの連携による、社会状況の変化に応じた現実問題の定式化
■地域の担い手となる人材育成と交流
量子コンピュータに関わる若手研究者の育成、相互技術者・研究者の交流
■未来のための技術開発の推進
次世代の量子コンピューティング技術・活用方式の開発
(従来コンピュータ+量子コンピュータ、量子ゲート+量子アニーリングの組み合わせ活用など)

お問い合わせ

九州大学 大学院システム情報科学研究院 教授 池上 浩
Mail:ikenoue.hiroshi.834★m.kyushu-u.ac.jp
※メールアドレスの★を@に変更してください。