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九州大学荒川研究室、株式会社Fusicと産学連携を開始

オンラインチャットログ解析による孤立・孤独の発見から心理的安全性可視化へ 2025.10.27
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 九州大学大学院システム情報科学研究院 荒川研究室(研究室主宰:荒川豊教授)は、株式会社Fusic(本社:福岡県福岡市中央区、代表取締役社長 納富貞嘉)と「オンラインコミュニケーション分析による組織状態の可視化技術」に関する共同研究を開始しました。本研究連携では、これまで荒川研究室が科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)プロジェクトで蓄積してきたSlackログ解析技術を基盤として、企業が重視する心理的安全性やチーム力強化の新たな指標開発を目指します。

研究の背景と意義

 リモートワークやハイブリッドワークの普及により、オンラインチャットは職場の中心的なコミュニケーション手段となっています。一方で、発言の偏りや心理的安全性の不足、孤立・孤独感の増大といった課題も明らかになっています。従来のアンケート調査に依存した組織状態の評価手法では、リアルタイム性や客観性に限界がありました。
 荒川研究室では、JST RISTEXプロジェクト「多様な『つながり』で支える孤独・孤立対策技術の研究開発」の一環として、オンラインチャット空間を“新しい職場”として捉え、代表的なビジネスチャットツールであるSlackのデジタルフットプリントから孤立・孤独の発見や指標化を目指した研究を継続的に推進してきました。
 これまでの研究成果として、以下の学術論文を発表しています。

主要論文成果

  • Ryosuke Takizawa, Isshin Nakao, Kensuke Taninaka, Akihisa Takiguchi, Toshiki Hayashida, Hiromu Motomatsu, Yutaka Arakawa, "Visualization of Online Communication and Detection of Lonely Users Using Social Graphs Based on Contribution Level and Adjacency Level," Journal of Information Processing, 2025年10月
  • Ryosuke Takizawa, Isshin Nakao, Kensuke Taninaka, Akihisa Takiguchi, Toshiki Hayashida, Hiromu Motomatsu, Yutaka Arakawa, "Development of a Communication Analysis System for Detecting Isolated Users in Slack," In: 16th International Congress on Advanced Applied Informatics (IIAI AAI 2024), 2024. (Honorable Mention Award受賞)
  • 瀧澤亮佑, 荒川豊, "ビジネスチャット内の行動データとパーソナリティとの関係性分析," マルチメディア、分散、協調とモバイル DICOMO 2024 シンポジウム, 2024.
  • 瀧澤亮佑, 本松大夢, 中尾一心, 谷中健介, 瀧口諒久, 荒川豊, "組織Slackにおける孤立ユーザと非活性グループの発見を目的としたコミュニケーション分析システムの開発," 第31回 マルチメディア通信と分散処理ワークショップ (DPSWS2023), 2023. (最優秀論文賞受賞)

共同研究の概要

 本共同研究では、荒川研究室が蓄積してきたコミュニケーション分析技術と、Fusicが360度フィードバックサービス「360(さんろくまる)」を通じて培った組織開発の知見を融合させることで、新たなアプローチを実現します。
 研究の特徴として、従来のアンケート調査による主観的評価と、デジタルフットプリントから客観的に抽出される行動指標との相関関係を明らかにし、より精度の高い組織状態評価システムの構築を進める点が挙げられます。

期待される学術的・社会的貢献

 本研究は、多様な働き方が広がる現代社会を念頭に、これまで実施されてきたアンケートを主体とした主観的な調査では得られなかった人の状態をデジタルフットプリントから定量的に計測するという挑戦的なものです。これにより、企業が、より良い労働環境を構築しやすくなり、労働者がいきいきと働ける職場環境の実現を目指しています。特に、日本の組織文化に適した評価指標の開発により、働く人々の孤立・孤独の予防と包容力のある職場環境の実現に貢献することが期待されます。

荒川豊教授のコメント
 多様な働き方が広がる中、オンラインチャットを職場と捉え、その空間でのセンシングや介入に関する研究を進めてきました。今回、JST RISTEXプロジェクト*で開発したチャットログ分析に関する研究の実用化に向けて、Fusicと共同研究・開発できることを大変嬉しく思います。
 *JST RISTEXウェブサイト: https://kodoku-ristex.m.u-tokyo.ac.jp/

Fusic 代表取締役社長 納富貞嘉氏のコメント
 組織における心理的安全性の重要さは広く認識され、私自身も深く実感しています。本共同研究では、日々のオンラインチャットに蓄積されたデータを活用することで新たな気づきを生み出せる点に大きな可能性を感じています。九州大学との連携を通じ、安心して挑戦できる職場づくりを社会へと広げてまいります。

今後の展開

 今後は企業での実証実験を通じてシステムの有効性を検証し、国際学会での発表や学術論文の投稿を積極的に行う予定です。また、開発したシステムの産業応用展開を図り、研究成果の社会実装を推進していきます。九州大学の研究力とFusicの実装力を融合し、心理的安全性の向上と働きやすい職場づくりの実現を目指します。

九州大学 システム情報科学研究院 荒川研究室について

 九州大学 荒川研究室 荒川豊教授は、実世界からのセンシング技術とクラウドでのデータ処理技術、その間を結ぶネットワーク技術といった多様な情報領域の技術を組み合わせ、人に寄り添うサイバーフィジカルシステム(CPS: Cyber-Physical Systems)、すなわちヒューマノフィリックシステムに関する研究を行っています。「ヒューマノフィリック」とは「人と親和性の高い」「人に優しい」という意味を持つ概念です。

 同研究室では、センサ(IoT)と機械学習(AI)を用いた人間行動認識の研究を軸に、新しいセンサの開発からアプリケーションの実装、社会実証まで幅広く取り組んでいます。近年では、行動認識技術を基盤に、心理学や行動経済学の知見を取り入れた行動変容支援システムの研究にも注力しています。

ウェブサイト:https://app.ait.kyushu-u.ac.jp/

株式会社Fusicについて

 株式会社Fusicは、代表取締役社長 納富貞嘉と取締役副社長 濱﨑陽一郎が九州大学大学院(システム情報科学府)在学中に創業しました。クラウド、AI・機械学習、IoT、Webアプリ開発、UI/UXデザインなどを組み合わせる“技術結合力”を武器に、お客さまの課題を解決するシステム開発および技術コンサルティングを行っています。近年では、宇宙・衛星開発企業に向けたクラウド基盤構築や衛星データ解析の支援など、宇宙ビジネスにも注力。さらに、自社開発プロダクトを提供し、社会や企業が抱えるさまざまな課題を技術の力で解決しています。ブランドスローガンに「OSEKKAI×TECHNOLOGY」を掲げ、お客さまのご要望に向き合い、伴走しながら、期待を超える価値をお届けすることを大切にしています。

ウェブサイト:https://fusic.co.jp/

お問い合わせ

システム情報科学研究院 教授 荒川豊
Mail:arakawa★ait.kyushu-u.ac.jp
※メールアドレスの★を@に変更してください。