Notices お知らせ
ポイント
モリシタクサアリは、越冬のため、秋に樹幹の巣から地中の巣へ幼虫を運搬する。
概要
九州大学大学院生物資源環境科学府博士課程1年の梶原冴月氏と、帯広畜産大学環境農学研究部門の山内健生准教授は、アリの幼虫に寄生するハチの一種であるアラカワアリヤドリバチにおいて、アリの巣の前で雌のハチがホバリング(※1)を行う際、同種の雌が現れると空中で激しく体をぶつけ合う行動を確認しました。寄生バチにおいて、このようなドッグファイト(※2)さながらの空中での体当たり行動が報告されたのは世界で初めてです。体当たりによって突き飛ばされたハチはバランスを崩して落下し、アリに襲われて巣内に引きずり込まれる様子も観察され、寄生行動が大きなリスクを伴うことが明らかになりました。アリによる日中の幼虫運搬は稀であり、ハチが寄生できる機会が限られていることから、雌同士の激しい種内競争が生じていると考えられます。
また、アラカワアリヤドリバチは、近縁種の中では体が大きく、後脚の一部分が太く扁平という特徴をもちます。これらの形態が空中での安定したホバリングを可能にし、競争結果に影響している可能性があります。本研究成果は、巧みな寄生戦略の一端を明らかにしたものであり、寄生バチの行動進化を理解する上で重要な知見をもたらします。本研究は、12月13日(土)に国際社会性昆虫学会が刊行する学術誌「Insectes Sociaux」にオンライン掲載されました。
DOI:https://doi.org/10.1007/s00040-025-01072-8
(※1)ホバリング・・・空中で停止飛行すること
(※2)ドッグファイト・・・戦闘機同士の空中戦のこと
図1.アラカワアリヤドリバチ雌間の空中での闘争行動
A:2個体の雌がモリシタクサアリの巣前でホバリング(黄・赤矢印)
B–C:巣前に位置していた雌(赤矢印)が、接近してきた雌(黄矢印)に体当たりし、突き飛ばす様子
D:突き飛ばされた雌(黄矢印)がアリの巣に運び込まれる様子
研究者からひとこと
私は3年前、普段から観察していたアリの巣の前で偶然アラカワアリヤドリバチに出会いました。本種は一般的に珍しく、身近な場所で継続的に行動観察できたことは大きな幸運でした。1日3時間アリの巣の前で観察を続ける中で、雌同士が空中で体当たりするという想像もしていなかった行動に気づき、今回報告することができました。
今後は、このハチの仲間の寄生戦略と機能形態の研究を進め、寄主との関係の中で形態や行動がどのように進化してきたのか、明らかにしていきたいです。
(九州大学大学院生物資源環境科学府博士課程1年 梶原 冴月)
農学研究院
資源生物科学部門 准教授 三田敏治
Mail:t3mita★agr.kyushu-u.ac.jp
※メールアドレスの★を@に変更してください。